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憂鬱シャルテノイド 後編

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「…むしろ、お前のせいで時間を無駄にさせられてる今の方が大変だ」
 ぼそりと呟いた風斗の声が、心なしか低い。
 そういえば、記憶が確かなら今日は陽介の冬休みの宿題を手伝ってやる約束だったはずだ。明後日から学校なのだから、出来れば今日中に片づけてしまわなければまずいだろう。
 それを知ってか知らないでか、彼女は僅かに口の端を吊り上げた。
『ああ、そこは心配するな。私とて、お前達を振りまわした分の埋め合わせはしっかりさせてもらうぞ』
「へ? 何、まさか帰ったら宿題がもう終わってるとか!?」
『…………おめでたい頭はとっとと冷やすに限るな』
 喜びかけた陽介の言葉をばっさりと切り捨てて、彼女はゆっくりと掌を此方に翳す。
『何はともあれ、楽しかったぞ。人の子ら、そしてイザナギ』
 そう言うなり、掌から淡い光が溢れ出す。一瞬攻撃してくるのかと思い身構えたが、光はゆっくりと広がっていくだけで此方を傷つける気配は微塵もない。同じことを考えていたと思しき二人も、困惑を露にしていた。
「え、ちょ、何だよこれっ」
『案ずるな、別に危害を加えるつもりはないさ。…少し、戻るだけだよ』
「…戻る?」
 訝しげに聞き返す風斗に、彼女は小さく微笑むだけで。答えが返ることは、ない。
『さあ、向こう側に帰るといい。…次に会えるのは、いつになるのだろうな』
 ぽつりと呟いて、彼女は自嘲じみた微笑みを浮かべる。目が合ったのは、その瞬間だった。
『…イザナギ』
 逸らすことなく、まっすぐに見つめてくる赤い硝子玉。その視線が向けられているのは、自分と、風斗。
『       』
 唇は動いたのに、何を言ったのかは聞きとれなかった。直後、光は爆発するように急速に広がってゆき視界を白一色で埋め尽くす。
 眩しい、と思うよりも早く意識が呑みこまれた。そこから先の記憶は、一切ない。