東方~宝涙仙~ <其の壱拾(10)~弐拾(20)>総集編
衝撃を受け精神的に怯んでいるうちに、文は扇を大きく振り風を巻き起こした。暴風に押され壁に吹き飛び衝突するネペル。
「がッ!!」
今回の戦闘において二度目のダメージを受けた。ネペルは自分自身がこの幻想郷の中で最速のスピードの持ち主であると思い込んでいたらしく、今目の前にいる文の素早さが信じられない。
壁に衝突し、そのまま床へ落ちて倒れこ身むネペルに文が近寄った。
「あなたはなんで妖精達を襲ったんですか?」
背中が痛むのを堪えネペルは説明した。
「元々殺す気なんてなかった。あぁ、本当だ。殺そうと思えば最初の一撃で殺せた」
「そもそも殺す気がないのになぜ奇襲をかけたんですか」
「私は姉を倒す為、姉を追いこの館まできた。あの姉との戦闘だ、こんな館ごとき崩れてもおかしくはない」
「それで?」
「館が崩れるというのにあんな幼い子達がいては奴らは危険だろう。だから脅かして逃げさせようとしたわけだ…」
文は半信半疑ではあったがそれなりに筋の通った説明なので信じておくことにした。ちなみにネペルは本当のことを話している。
「口で言えばよかったのかもしれないな…。ただ、奴らが『館に黒い着物の女がいた』などと周りに言いふらしては姉に気付かれ逃げられる可能性もあり得る」
「なるほど。しかしあそこまで本気にならなくてもよかったんじゃないですか?」
「最初から見ていたのか?」
不意を突かれたようにネペルはキョトンとする。ネペルはいつしかさきほどまで荒れていた絶影の女侍とは、目の赤い光が止まり思えないほど穏やかで優しそうな表情になっていた。
「いえいえ、ほらこの写真。あ、これデジタルキャメラって言うんですけども…さっきのあなたの弾幕が綺麗に写っていますよ」
「きゃめら?お前不思議な物持ってるな。まさかそれがさっきの発光の正体か?」
「ええ。ほら、こんな無数の弾幕を撃って、殺す気じゃないですか」
「ははっ、まさかあの幼い子達があんなに強いとは思わなくてね。本気でやるしかなかった。特にあの氷妖精。あの時刀でなく私が狙われていたら確実に私は負けていた」
捨て笑いを浮かべ恥ずかしそうに言った。
ネペルと文は敵でありながら普通の会話を行っている。これも文がサバサバしておきながらも穏やかな性格だからだろうか。
「実はですね、チルノさんはあなたを潰しにかかってないんですよ」
「え?…いや、でもあの威力の氷をぶつけてきたわけだし…!」
「あやや、気付いてませんか。あの子は人が傷つく事だけを嫌うんです。だからあなたを殺すのではなく、ただ止めたかっただけ。優しい子なんですよ」
「私相手に手加減でも?はっはっはっ。こりゃ完全に私の負けだったようだな」
ネペルは腰を抑えながら「いたた」と言いながら立ち上がり、持っていた刀を納刀した。
「これからどこに行くんですか?」
「クエストリタイアするわけにはいかないからな。姉を倒してくるつもりだ」
「そうですか。気を付けてください」
「それじゃ、ここは逃げさせてもらう」
「あ、ちょっと!」
退却しようとしたネペルを文は呼び止めた。呼び止めた文はカメラを構えこう言う。
「記念に一枚どうですか?」
向けられたカメラを眺めネペルは自分が写し出される事を恥ずかしげに答えた。
「その…どうせなら私も女なんだ…なんというかー…」
暗闇でもわかる。ネペルは確実に赤面していた。文はそれに気付いていたが何も言わない。
「あー、可愛く写してくれ……。は、恥ずかしいな…」
クールなキャラに似合わず恥ずかしがっているネペルを見て文は笑顔で優しく、カメラマンな一言をかけた。
「大丈夫ですよ。純粋な人はみんな可愛く写りますので」
「そ、そうか…?」
パシャリという音と、フラッシュの光が1秒を刻む。
「はい、おっけーねでーす」
「やはりそれは眩しいな…。もう撮れたのか?」
「ええ、ほらこんなに可愛く」
文はネペルに写真を見せた。
「み、見せるな恥ずかしい!」
余計に赤面してゆくネペル。
「記念ですよ記念。現像したらいつか送りますので!家は知らないですけど確実に見つけれる千里眼が部下にいますので」
「……その時を楽しみにしてるよ」
こうして二人は別れた。
絶影として戦い続けてきた侍は、人生で久々に笑顔を浮かべた。
射命丸文、彼女はやはりプロのカメラマンなのだろう。
▼其の壱八(18)へ続く
Touhou Houruisen episode18
「お嬢様の最後の命令。しっかりと務めさせて貰います」
ー紅魔館・レミリア&フランドールの部屋ー
フランドール、アイラ、シズマの3人は部屋から出ていってしまった。その光景をレミリアは苦しみながら見ているしかなかった。
「くそ…あいつ…ら……」
レミリアの感情は憎しみばかりが残っている。今まで真実を言い続けてた妹を信じてやれなかった事、そして、咲夜を殺した犯人が見つかったもののその犯人との圧倒的実力差。
床に爪を立てて悔やみ続けた。
「アイツが…アイツが咲夜を……、咲夜を………」
どう必死になっても涙を堪えきれないレミリアを見て、美鈴は声をかけることはできなかった。
二人の間で先に声をかけたのはレミリアのほうだった。
「美鈴…。」
「え、あ。はい」
「魔理沙と霊夢が…魔理沙と霊夢が来たら……。事情を美鈴が説明して…」
「わかりました。お嬢様は今からどうするんですか?」
美鈴の質問にレミリアは涙で潰れた顔を少し笑みに変えて答えた。
「私は………こ………」
答えきれないままレミリアは目を閉じてしまった。フランドール戦で蓄積されたダメージに加え、アイラにやられたダメージ。何よりも精神的ダメージと負担で力尽きたのだろう。
『無念』の一言が染み出すその表情で、レミリアはそっと力が抜けていった。
「お、お嬢様!?」
独りきりの世界に投げ込まれた美鈴はレミリアに大声を上げて呼びかけた。
「お嬢様!!レミリアお嬢様!!」
「…。」
「お嬢ぁぁ!!お嬢様ぁぁぁぁぁ!!」
何度も何度も呼びかけたが、レミリアが返事をする事はなかった。
「咲夜さんも亡くなって…妹様も出ていってしまって…お嬢様もいなくなってしまったら…、私とパチュリー様はどうすればいいんですか…」
人形のように身動きをしないレミリアに語りかける。
咲夜が殺されたと聞いた時も、最後の最後まで死んでいる咲夜に話しかけていたのはレミリアでなく美鈴だった。仲間を思う意思が強い美鈴にとって咲夜の時も今回も、とてつもなく辛い事だろう。
妖怪であるが為に、長寿であるが為に巡り合う悲しみ。「これも運命なのよ」と教えてきた主"レミリア・スカーレット"が動かずに目の前で倒れているという現実。
美鈴はレミリアの教え通り運命を認め、勇敢に立ち上がった。
「お嬢様、お嬢様の最後の命令。しっかりと務めさせて貰います」
閉ざされたままのレミリアの瞳を見つめる。
作品名:東方~宝涙仙~ <其の壱拾(10)~弐拾(20)>総集編 作家名:きんとき