東方~宝涙仙~ <其の壱拾(10)~弐拾(20)>総集編
レミリアを離れ、ドアを開けた。廊下の微かな光がレミリアを照らす。
「ありがとうございました。行ってきます」
そう言い美鈴は廊下へ出るなり走り出した。
ー紅魔館・東側廊下ー
フランドール、アイラ、シズマ達は部屋を出て東側廊下を歩いている。アイラを挟むように3人が並ぶ。
レミリアに裏切られた気でいるものの、横にいるのは咲夜を殺した犯人"アイラ・ダーブレイル"。仲間として加わって気持ちのいいものではなかった。
「ねぇ」
「何?フランちゃん」
「フラン達は今からどこへ行くの?」
心に思った疑問をシズマに聞いてみた。フランドールの不安そうな問いかけにシズマは優しく返すようににっこりと笑う。
「フランちゃんは紅魔館嫌い?」
「え?」
シズマの言葉はフランドールの問いかけとは関係がなかった。
フランドールはこの時点で少し先を察した。紅魔館の爆発に続き、自分を味方に加えた事、さらに今の言葉。
おそらく紅魔館を完全に潰す気でいるのだろうと考えた。
紅魔館内最強といえば悪魔の妹"フランドール・スカーレット"。アイラさえいれば紅魔館メンバーを全滅させる事も可能だろう。しかし、もしも地下牢でフランドールが狂気を溜めこみExtraランクという実力を越えた場合どうなるだろうか。
アイラとためを張れる。そこにパチュリー・ノーレッジ、レミリア・スカーレットといった高ランクの者がフランドール側についてしまってはアイラであろうとも太刀打ちはできない。
そこでシズマの考えではフランドールを味方につけ、レミリアを戦闘不能にしたうえで紅魔館を潰すという計画が立てられていたのではないか。
フランドールは我に返ったようにシズマの味方に付いた事を後悔しだした。
「フランちゃん?」
「!…あ、うん。そんな…好きじゃない…」
嘘だ。フランドールはあまりのプレッシャーに押し負け、大好きな紅魔館とそのメンバーを嫌いと言ってしまった。
ここまで言ってしまうともはや後には戻れない。今更「やっぱお姉さまの味方!」なんて言い張れない。おとなしくシズマとアイラに着いて行くしかないのだ。
「じゃあ紅魔館、壊しちゃおうか」
「!?」
今まで下を向いていたフランドールは青ざめてシズマの顔を見た。
「壊しちゃうの?」
「フランちゃんは嫌な思い出を残したお家に住みたいの?」
「そういうわけじゃ…」
口ごもるフランドール。
「いらないものは全部壊してスッキリしてしまえばいいんだー」
「そんな…でもフランは…!」
「紅魔館、嫌いなんでしょ?」
アイラが精神的にさらに追い込みをかける。アイラの性格は、昔の一番狂いに狂っていたフランドールの性格に似ている。
アイラも常に発狂しているわけではないが、どこか理性の抜けたような感じだ。そのせいか、いらないものは壊し、いるものは自分の側から決して離さない。そんな単調な性格なのだ。
そもそも今回シズマとアイラがなぜ紅魔館に攻め込んだのかは不明であるが…。
「ぬむー、フランちゃん、どうなのかな?壊していいのかな?」
「……」
完全に追い込まれたフランドールは小さく、本当に微妙なほどにコクリとうなずいてしまった。
「フヒヒヒヒ…ヒヒヒヒヒヒ…ヒハハハハハハハ!!!」
痛々しい大笑いを廊下に轟かせ、フランドールの左手を握ってアイラは機嫌よくスキップをした。
「い…痛いよアイラちゃん。そんな強く握らないで」
力の制御がわからないアイラに振り回されて、欝な気持ちの少女は廊下を行く。
▼其の壱九(19)に続く
Touhou Houruisen episode19
「黒幕よ」
ー博麗神社ー
「霊夢ぅぅぅぅ!!」
神社の鳥居の近くに魔法使いが、まるで流れ星のごとく降ってきた。
「なによ騒がしいわね、って魔理沙!?なにやってんのあんた」
巻き立つ砂煙の中にいたのは魔理沙だった。
「大変なんだ!とにかく早く来てくれ!」
ボロボロの魔理沙が霊夢を、早く着いてこいと呼ぶ。
「どうしたのよそんなに慌てて」
「紅魔館に異変だ!」
「紅魔館?また赤い霧でも発し始めたの?」
「違う違う。紅魔館の爆発事件だぜ!」
「紅魔館が爆発したらさすがにここまで音聞こえるわよ。あんだけでかいんだから」
「そうじゃなくてなぁ…」
息を切らせた魔理沙を霊夢はいったん落ち着かせる為に一度間を置いた。
「んで、詳しく説明しなさい」
「パチュリーに本を借りに紅魔館までレミリアと向かったんだ。そしたら紅魔館の一部が炎上しててな、今紅魔館へはレミリアが向かってる。アタシはとりあえず霊夢にも協力してもらおうと呼びにきたわけだ」
「はー、なうほどね」
落ち着きを取り戻した魔理沙の説明は慌ててるときよりはるかに詳しく、霊夢も把握と理解ができた。
紅魔館の一部が炎上しているとなるとやはり霊夢は一番最初にフランドールの仕業を疑った。
「あの妹の仕業じゃないの?」
「それはないと思うぜ。どんなに狂っても紅魔館が大好きなフランが紅魔館を爆発するなんて…」
「でも可能性はなくはないわね」
「フランばかり疑うな!咲夜が殺された時もみんなフランを疑って…今でもアタシは犯人はフランじゃないと信じてるぜ」
「……」
「アイツだって本当は寂しくてみんなと仲良くしたいだけなのに…。それなのにみんな紅魔館関連はフランが犯人で片付けられて…」
「はいはいとりあえず話を戻すわよ」
魔理沙の話がだいぶずれてきたので霊夢が修正した。
魔理沙はなにか晴れ晴れしない気持ちのままだがそこを抑え、話を元に戻した。
「レミリアもお前の助けを求めてた。だから霊夢も来てくれないか?」
霊夢は事の危険性を考えて魔理沙に着いて行く事にした。
もし自分が出撃せずに魔理沙もろとも紅魔館が滅ぶのも嫌だったのだろう。たまに宴会代の立て替えだとかでお世話になってるわけだし。
「めんどくさいけどしょうがないわね。私も着いて行くわ」
「ホントか霊夢!?ありがたいぜ!」
「世話やけるわねまったく」
霊夢は立ち上がるなり、大きめの木製の棚の引き出しを開け何かを探しだした。
そして手にしたものは陰陽玉と呼ばれる黒と白が勾玉の形で分けられた模様の玉だった。
「なんだそれ?いつもは白と赤の玉じゃなかったか?」
「ホーミングアミュレッドの強化版よ。いざとなれば"夢想封印"以上の技が使えるわ」
「そりゃ楽しみだぜ」
落ち着くどころかウキウキ気分さえ持ち始めた魔理沙。
霊夢と魔理沙は博麗神社を後にし、紅魔館へと向かった。
ー紅魔館・廊下(パチュリー・ノーレッジ)ー
パチュリーは風香と二手に分かれ美鈴を探していた。昔からの紅魔館からの生き残り、そう言っていいのだろうか。パチュリーは咲夜の死後仲間の死を味わいたくはないと思い今日まで過ごしてきた。
作品名:東方~宝涙仙~ <其の壱拾(10)~弐拾(20)>総集編 作家名:きんとき