東方~宝涙仙~ <其の壱拾(10)~弐拾(20)>総集編
「さっきと同じなんて懲りないなぁ、えいっ!」
また正面めがけて飛んでくるネペルに対して正面に壁を作るように弾を飛ばす。
「さっきと同じで成功すると思うとは単純な奴だ」
ネペルはしゃがみ態勢を低くして弾を避けながら、刀を床と水平に横に突出し両手で構えをとった。
「降段の構え『身―残ノ白河(みね―ざんのしらかわ)』」
「なんだってー!?」
ネペルの刀はチルノの左胴を斬りぬいた。
「チルちゃんッ!!」
大ちゃんが叫ぶ。
「ん?アタイ斬られてないよ?」
「え?」
「阿呆。斬られそうになった場所を確認しろ氷妖精」
チルノは言われた通りに斬られたと思う場所を見た。
「これは!!」
チルノの左横腹を通った刀の軌道を描くように白い光のような線が残っている。見るからに触れてはいけなさそうな感じだ。
「一撃で終わりはしないぞ」
「チルノ!ルーミアも戦うぞ!」
「ルーミィ来ちゃダメだ!サイキョーのアタイでもちょっとやばいかもしれないくらいなんだ!」
「そんなこと言ってないで!」
「チルノ!ちゃんと避けてね!闇符『ダークサイドオブザムーン』!」
ルーミアはチルノがいてもお構いなしに狭い廊下で赤い弾を拡散させる。
「簡易パーフェクトフリーズ!」
ルーミアの飛ばす弾幕が自分の目の前にきた時氷で凍らせて固め飛弾を止めるチルノ。ある意味守備面においてチルノは本当に"サイキョー"かもしれない。
「薄い薄い。まだこんなんじゃ弾幕には見えないな」
目で追える程度のスピードでルーミアの弾幕を避けるネペル。
「油断しちゃダメっていったのはあんただぞー」
ルーミアは赤い弾に紛れて、満月のように丸く黄色い少々大きめの弾も追加する。
「どうせ氷妖精のように隠し弾があると思ったぞ。残念だったな…」
「!?」
「すでに後ろだが、どうする」
「い、今まで目の前にいたのに!?」
ルーミアが振り返るとそこには誰もいなかった。チルノも大ちゃんもかぼちゃんも、誰ひとりとして攻撃するタイミングを掴める者はいない。唖然と見ているしかなかった。
「横だ」
「横!?」
「ただいま、正面だ」
「しょ、正面!?どこ!どこ!」
「私を探してないでお前の周りをよく見渡せ」
ルーミアの周りは五角形に結ばれた白い光の線で囲まれていた。
「残光『光屈ノ線々-プリズムライン-』。お前ら二人に忠告するぞ。動けばその残像から弾幕を放つ」
「線から…」
「弾幕を…!?」
▼其の壱六(16)へ続く
Touhou Houruisen 〜episode16
「ごめんね、チルちゃん」
ー紅魔館・廊下ー
動くと弾が確実に当たるように細工を仕組まれたチルノとルーミアは動けなかった。
「そこのハロウィン、この明かりを全て消せ」
「ハロウィンて…私の事ですか?」
「そうだ、お前だ」
指名されたのはかぼちゃんだった。
暗い空間での戦闘を主体とするネペルにとって今の明かりは鬱陶しいらしい。別に明かりが苦手というわけではないのだが。
「消せません!」
「消せない?」
「これは私の心身ダメージと連動してますので好きに消せたりはしないんです」
かぼちゃんの説明に対して最初に反応したのはルーミアだった。
「ちょっ、かぼちゃんそれ言っていいのか!?」
「え?」
「そんな事言ったら…!」
「そうかそうか、この光はお前の心身ダメージと連動してるのか。なら…」
ルーミアの前にいたネペルは一瞬にしてかぼちゃんの背後を取った。かぼちゃんはそれに反応できるわけがない。しかし大ちゃんがかろうじて反応できた。
「かぼちゃん、後ろ!」
「痛恨の一撃で倒すまでだな」
ネペルは刀の柄の部分でかぼちゃんの背中を突いた。
「ぐうっ」
突然の痛みに驚きをみせるかぼちゃん。背中を突かれ何もできずに体を反らせるかぼちゃんの後頭部の髪を毟るように間髪入れずに掴むネペル。
そのまま掴んだ後頭部の顔面を床に叩き付ける。
「あうっ!」
超スピードの中で何が起こっているか把握できていないかぼちゃんは何も反撃に出れない。やられるがままにされるしかない状態だ。
廊下の壁で光る弾は徐々にその光を薄めてゆく。
「本当に連動してるようだな」
「や、やめろぉぉ…」
「ふふん、ここでやめると思うな。まだまだ続くぞ」
顔面を床に押し付けたままネペルは走りだした。かぼちゃんが受け身の態勢に入ろうとしている為に顔面全体のダメージは防がれてはいるものの、横顔が完全に床に擦れている。
ただし不幸中の幸い、さすがは紅魔館。床は紅い絨毯でできているためダメージはそう高くはない。それでも摩擦によるダメージは蓄積されつつある。
引きずるのをやめ、次は壁に張り付いた光の弾にかぼちゃんを押し開けた。
「うあぁぁぁ!!」
光の弾と言っても一応弾幕の弾であることに変わりはない。当たった部分が火傷する程度の攻撃力はほこる。
「己が弾に苦しめ!」
ガンガンとかぼちゃんを壁にぶつけたり放したりを繰り返すネペル。弾の光はさらに弱くなり、廊下が薄暗くなり始める。
「かぼちゃんを放してぇぇ!!」
大ちゃんがネペルに向かって弾幕を放つ。大ちゃんの弾幕はとても弾幕とは言えないが、弾が廊下全体に広がる為ネペルはかぼちゃんを開放し攻撃を止め避けに徹した。
「緑の妖精、次はお前か…。お前は確か大妖精だな。森でよく見かけるぞ」
「こ、怖くなんかないですからね!相手します!」
「度胸だけはビッグサイズか、大妖精だけに」
少し洒落を言うとネペルは刀の剣先を水平より少し下げた構え方で構えた。
「下段の構えと言ってな。防御にも攻撃にも向かないように見えるだろう」
「そんな構え方、腰から上ががら空きじゃないですか!」
大ちゃんは相手の上半身を狙い銀色のナイフのような弾を大量に飛ばした。自機狙いの弾。相手が動けば動いた先に弾が飛ぶ仕組みになっている。
「下段の使い方を見せてやろう、大妖精」
右手を柄から離し、下に向けていた剣先を一気に上に向けて大ちゃんの喉元を目がけて飛び込む。剣先に触れた弾もを真っ二つに両断し突きを出す。
『諸手突き』
わが身を捨て、相手の攻撃を確実に裁ける事にかけて放つ突き。
刀同士でこの技を繰り出すと確実に相手の喉を正確に目がけれていたほうが勝つのだが、今回の相手は下級ランクの弾の集まり。
裁かずに弾ごと両断してしまえば絶対に相手の喉へ届く。そして今回も、見事に大ちゃんの喉へと刀は伸びた。
「そ…そん…な……」
刀の剣先が自分の喉に向かってくるのをスローモーションで感じた。諦めと絶望に満ちる。
………ごめんね、みんな。
………ごめんね、チルちゃん……。勝てなくて…。
「大ちゃんに……」
刀が大ちゃんの喉へ飛ぶ中、離れたところで氷のように冷たく透き通る声が鳴った。
「大ちゃんに…刀を向けるなぁぁぁぁぁ!!!!」
目に涙をにじませたチルノが冷気をビーム状に放っている。
「キサマッ!!」
作品名:東方~宝涙仙~ <其の壱拾(10)~弐拾(20)>総集編 作家名:きんとき