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遊☆戯☆王ZEXAL THE ORIGINAL Ⅲ

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しかし遅かった、蟻岩土ブリリアントはその巨大な牙で風香の腕を挟み込み、力一杯に投げ飛ばした。

【ゴキン!!】

何かが折れるような酷い音が響き渡り、風香の小さな身体が空を舞う。

「風香ああっ!!!」


僕は間一髪、地面に激突するより前に風香を抱き止める事に成功し、優しく床に下ろした。

「う…ぅ」(3300〜900)

残り900となった風香は瀕死の状態だった、服からは赤い血が滲んで浮かび上がり、頭から流れる血で顔を真っ赤にしながら薄く目を開く。

「何、部外者が飛び込んで来てるんだい?邪魔だよッ!!さっさと消えな!!」

海里は怒りとともに絶叫する。が、僕は構わず無視し、風香と目を合わせる。

「…こうき…だめだよっ…」

風香はやっとの事で薄く開いた目で注意を呟き、痛みで身体を震わせる。

「わたしはね…でゅえる…のときは…くちだし…したりしないの…なんでかわかる?」


痛みで話すのも辛い筈だ。しかし風香は話すのを止めない、今にも意識を失いそうな虚ろな瞳は、既に僕など見えてはいないのだ…。

「たたかってる…あいても…トモダチだからだよ…だから…トモダチは…だいじにしなくちゃ…」


風香は、左手で僕の襟を掴んで身体を起こし、立ち上がろうと体に力を込める。だが、立てない…立つ力すら残ってはいない。

「はれ?…みぎての感覚が…ないや…どうしてかな?…えへ…」

屈託なく笑う風香から僕は顔を反らしてしまう…何故なら彼女の右手首から下は、違う方向に折れて曲がっているからだ、骨の支えを失った手首は、力なくぶら下がり、破れた皮膚から血が滴っている。


「痺れちまったのか?…しかたない奴だな…」

僕は、そんな右手に強く握られていたカードを取る…それは…。

「お前っ!…」

それで僕は…風香がガスタ・サンボルトを攻撃表示で特殊召喚し、むざむざダメージを受けた理由を理解した。それは…このターンで風香を仕留めない限り、海里に勝つことができる…逆転の一手ともいえる切り札…そのカードの名前は…【ヴァイロン・スフィア】…。

「どうして!?どうして!!…お前ならこんな賭けをしなくても!攻撃を受けずにこの展開に持っていけた筈だろ!?…」

僕がヴァイロン・スフィアを見ていたのに気が付いた風香は、微笑む。無邪気に…痛みなんてもう感じていないかのように。
「馬鹿野郎っ!!」



他でもない僕には分かっていた、風香は確実な勝ちを取りに行った…例えライフを失い傷つき、血塗れになろうとも…、それは海里の為に。


僕は風香の身体を支えて無理やり立たせる。当然、風香は怪訝な顔をして目を見開いていた。

「手伝ってやる!!…勝って海里を救うんだろうが!!」


風香はゆっくりと頷いて、寄りかかるようになりながら確りと立った。

「夫婦漫才は終わり?…」
海里は欠伸を噛み殺して嫌気がさしたかのように呟いき、そしてニヤニヤと笑みを浮かべる。

「あたしに勝つ?そんな馬鹿な事を言っても、ハンド一枚、ドローをロックされ、フィールドにたった二枚の伏せカードでどうあたしに勝つというのさ!?負け惜しみは止めなっ!」

海里は完全に勝ったつもりでいる様子だった。なら思い知らせてやるだけだ…俺は海里を睨む。

「わたしは…ガスタ・サンボルトの効果を…発動…ガスタ・サンボルトが…戦闘によって破壊されたバトルフェイズ終了時…墓地のがすた…を…除外する事で…デッキから…ガスタと名のつく守備力…1500以下のモンスター…を…特殊召喚…する」

風香はふらつきながら、風香の動かない右手の変わりに、僕が墓地から弾き出されたカードを除外エリアに置き、デッキからカードを抜き取るとデュエルディスクにセットする。


「わたしは…ガスタ静寂のカームを除外し…ガスタ疾風のリーズ(レベル5、効果、サイキック族、攻撃力1900、守備力1400)を…特殊召喚…」

疾風のリーズが現れると、風香を気遣うように不安げな眼差しを此方に向けてきたが、暫く見つめ会っていると顔を海里の方に向け身構える。

「はっ…なんだい?まだお友達がいたのかい…なら次のターンにたっぷり料理してやるよ!!、ターンエンド!」

海里は傲慢というべきか、それとも倒せるなら倒して見ろと言うような態度で、確実な勝利を確信したように、余っている手札を一枚も伏せずにターンを終了し、スピリットモンスターであるリチュア・ナタリアは手札へと帰っていき、フェンリルと蟻岩土ブリリアントだけが残された。


「ごめんね…かいり…」


風香は、消え入るように囁いて、ゆっくりと海里に目を向けた。

「ああん?謝って許しをこうってかいっ?どんなことをしても無駄さ!あんたは死ぬんだよ!!」

無情にも言い放つ海里だが、僕は思う…風香がいいたいのはそうじゃない。やっぱり風香は首を横に振り、体が痛くて笑える筈の無い彼女が、緩やかな笑みを見せた。

「えへへ…だって…海里に…次のターンはまわってこないから……たのしかったよ…ありがとう…ってさ」

「な…なんだって!?なに寝呆けた事を言ってるんだい!!この状況を覆すカードなんて…蟻岩土ブリリアントを破壊できるカードなんて…あるわけ……」

そう、破壊は出来ない…否―する必要なんてない。

「教えてあげる…モンスターを破壊するだけが…勝つって事なんかじゃないっ…」


風香は言った、そして最後の力を振り絞り、たっぷりと息を吸い込んだ。

「あたしは!!ヴァイロン・スフィア(レベル1、チューナー・効果、機械族、攻撃力400、守備力400)を攻撃表示で召喚!!」

僕が風香の動かない右手の変わりに、ディスクにヴァイロンスフィアを差し込む。と、リーズの横に銀色に輝く球体が姿を現した。

「ああ?…そんな球体で…あたしに」

海里は不快そうな表情を浮かべるも、まだ事の重大性に気付いてはいない…僕はこの瞬間に確信した…お前の敗けだ…と。

「あたしは…レベル5、ガスタの疾風リーズに…レベル1、ヴァイロン・スフィアをチューニング・チェンジっ…あらたなる武器を得て…進化せよ…」


リーズはスフィアを手に取ると、スフィアは銀色の杖に変身し、それを手にしたリーズは…テレビアニメの魔法少女のように変身してゆく。

「総ての悪を凪ぎ払う銀色の光っ!魔法少女!ダイガスタ・スフィアード(レベル6、シンクロ・効果、攻撃力2000、守備力1300)!!見参!!」

銀杖を構えたスフィアードが舞い降り、蟻岩土ブリリアントと睨み合う。

「く!!くはははは!!!攻撃力2000〜?残念だったわねそんなゴミで!No.は倒せないん…」


「罠カード!ガスタの祈りを発動…わたしはガスタの巫女ウィンダとガスタ・イグルをデッキに戻し……ガスタ・ガルドを特殊召喚…」

スフィアードの肩に、小さなガルドが乗り、海里はさらに首を傾げた。

「はあ?…なんだ?雑魚を呼んで…なにを…」

「…ガスタ・ガルドでNo.20蟻岩土ブリリアントに攻撃…」


ガスタ・ガルドは真っ直ぐに蟻岩土ブリリアントに向かい、蟻岩土ブリリアントの巨大な足にたたきつぶされる。