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ぼんくらー効果
ぼんくらー効果
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巴マミが魔法少女になる前の話

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 気がつけば、わたし達の視界には目的地が見え隠れしていました。

 わたしたちの目的地、”見滝原総合病院”。笠見野にはここに勝る病院はありません。そのため、重病の患者さんは、決まってここまで電車で通い、ここまで来て入院するのです。
 ルミちゃんは、もうか。結構早かったね。と言いました。そして、急に立ち止まり、わたしは振り返ります。ルミちゃんは暗い路地を指し、こっちのほうが近いよ。と言うので、わたしは後を行くと、確かにそこには”見滝原総合病院”が広がっていました。

 ですが、そこは裏手だったので、一回ぐるりと回ってみると、見慣れた病院の玄関がそこにありました。これを踏まえても、明らかに近いでしょう。ルミちゃんは最近知った。と言っていました。

 病院内は清潔な雰囲気と鼻に付く独特の匂いが充満し、おでこに白いものを張った子供がお母さんの膝の上で寝ていたり、杖を突いた老人がマスクを着けて看護婦さんに手を取られて行きます。
 見慣れた光景です。ルミちゃんは真っ直ぐ行き、受付に用件と保険証の提示まで済まして、看護婦さんはルミちゃんを案内して行きます。奥の扉に入っていく時、ルミちゃんは横目でこちらを見て、前を向きながら手を振ってくれました。
 わたしも、ここでの目的を果たすために、上の階を目指すために――階段に足をかけます。

 ちょうどエレベーターから降りてきた親子は、無邪気な子供の手を取って去る母親らしき人とそれを見送る父親らしき人でした。男性は車椅子。顔色は青白く、短くひげを伸ばした顔です。おそらく、お見舞いに来た二人を見送るために降りてきたのでしょう。瞳を潤ませながら手を振っています。
 図らずも、手を取られてゆく子供が振り返り、また来るね。という元気な声がフロア中に響きます。
 父親を残して親子は去り、わたしはその先のところからは目を反らし、階段を上りました。しかし、

 ――たとえ目を反らしても、男性の漏らす音はしっかり耳に届いてしまいました。





 わたしの用事が終わってどれくらい――何時間経ったでしょうか? 時計の鳴らす音を数えながら、わたしは打って変わり静まり返った病院のロビーでルミちゃんのことを待っていました。
 時計と一緒に眺めていたルミちゃんの入っていった扉が開き、お医者さんの後から申し訳なさそうな表情のルミちゃんが手をかざしながら出てきました。

「ごめん……待った……よね?」
「ううん。わたし病室で寝ちゃったから来たのは結構さっきだよ?」

 ルミちゃんは腑に落ちない顔でしたが、わたしは構わずルミちゃんの手を取って、
「もう行こ? ほら、急がないと奈菜ちゃんの言ってたお店閉じちゃうよ?」
「――そうだね。はやく行こう」

 6時を過ぎて、もう間に合わないとわかっていても、言わずにいられませんでした。
 早く出たくて。早くここから去りたくて。でも、ルミちゃんに――悟られたくはなかった。

『なら、なんで来たのかな?』

 なんですか? あなたは誰ですか?

『なんでこの場所に来たんだい?』

 なにを知っているというんですか? あなたが。 なにを。 いったい。

『この場所が辛いというなら。君を貶めた環境が苦痛で憎いなら。すべて壊してしまえばいいじゃないか。君にはそれだけの力があるのだから』

 ――憎くない。 ――辛くない。 ――壊したくない。 ――――――寧ろ。

『”治したい”。そうだね? 既にその心は決まっているじゃないか。――なら』
「うるさい!!! うるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!!!!」
「千花!!!」

 ルミちゃんが叫んだ言葉が耳を貫いて、わたしは辺りを見回しました。
 驚いたまま硬直した看護婦さんが鋭い視線でこちらを見てきて、わたしは今の状況を理解しました。

「わたし……。わたし……!!」
「落ち着いて千花。どうしたの? 今日、なんか変だよ?」

 そう言われて、わたしの頭に冷水を流し込まれたように思考が回転します。
 わたしは、この後【どうすれば良いか】。【どうすることがルミちゃんに迷惑をかけないか】。それだけを考えて。導き出そうとして。

「ううん。なんでもないの。――早く。早く行こう」

 あまり気をつかったことは言えませんでした。それは、確かにルミちゃんの表情で察することができました。その心配と腑に落ちない顔。――それがなによりわたしを――。

「――そう。じゃあ行きましょ。わたしもなんだか急に早く出たくなったし」
「うん。ありがと」
「なんで? 感謝なんてされることなにもないよ」
「そう、だね」

 わたしは改めてルミちゃんの手を握って、見滝原の街中を目指しました。夜の風は今朝の陽気と変わって、冷たく、そういえばもう秋の終わりだな。と、ようやく季節を感じさせる陽気になりつつあるのだと、らしくもなく少し風流に捕らえていました。でも、冷たいおかげでルミちゃんの温もりが余計に幸せだと思い、結局いつものわたしでした。





 退廃的な少女は空に立っていた。

 澄んだ空気が月の縁をはっきりと映し出す。遥か遠くの街の光でさえ、意図せずとも見渡せる。そんな今宵に少女は立っていた。
 そう見えるのは、暗闇のせいでもあるが、その闇に完全に溶け込んでしまうほどの細い塔の先に一切の揺らぎなく直立しているからである。
 高い場所は風も応じて強まる。だが、知らぬ顔で直立する少女はやはり、人間の範疇に数えられないのだとわかる。そして、その少女の肩には白い何かが乗っている。それは、うさぎのような、猫のような不思議な生き物。猫ミミから垂れるもう一つの耳には金色の輪が浮いている。その謎の生命体がより一層少女の怪異性を強めている。
 その生き物はその印象的な少女に語る。

『今日も狩りをするのかい――?』

 語りかけられた少女は艶然と微笑み、

「――あなたに不都合でもあるのかしら?」

 と、言い放つ。それは異端を好む人々には心地よく、普遍を好む人々には恐怖に聞こえる。それほどに特徴的で、脅威的で、希望的な響きをもっていた。少女はその魅力的な笑みを徐々にナチュラルなものにしつつ、続けて言う。

「あなたは契約時の口説き文句に言ったわ。魔女を倒し、世界の秩序を護るチカラが君にはある……ってね。だから、わたしは思うままに倒す。それだけ」
『いや、別に構わないのだけどね』
「――いいえ。それはなにかある風ね。言ってみなさい。赦すわ」

 そう言われて、その謎の白い生き物は渋々といった風に言った。

『まあ、本当に構わないんだ。でも、何故君は”使い魔”も率先して倒しに行くんだい? 今まで君のような人間がいなかったわけではないが、少なくとも君のようなことをする人間に、君のような人間はいなかった』
「それは関係ないのではないかしら。不良だって動物を愛でる気持ちは欠片ほどにも存在しないとは言い切れぬし、優等生にも座学を煩わしいという気持ちがないとは言えないでしょう?」

 謎の白い生き物は、ふむ。と置き、やや置いてから続けて、

『つまり――君にとって人間は例に上げた不良のように、それ程に”憐れむべき対象”である。ということかな?』