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アズール湊
アズール湊
novelistID. 39418
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黒と白の狭間でみつけたもの (13)

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そう言ったのは、列に並んでいた黒いパーカーを着た茶髪の女の子だった。

「さぁ?知らない。野生のポケモンじゃないの?」

隣にいた友達らしい白いワンピースを着た女の子が言う。

どうやら野生のポケモンと勘違いされたらしい。

「うそ~!こんなところに野生のポケモン!? かわいい!!触ってもいいかな?」

2人の女の子達がそう言って騒ぎ出すと、まわりのトレーナーも次々と話し始めた。

列を作っている人達が、首をのばしてタッくんのことをじろじろと見る。

「野生のポケモンだってよ!」

「なんだよ、見えないよ」

「あのしっぽにさわりたーい!」

ざわざわと声がだんだんと大きく広がっていった。

なんだか嫌な空気。

困ったなぁ…。

「野生のポケモン!?」

「だったら捕まえても……」

物騒な言葉まで聞こえてきて、タッくんは青ざめてきた。

―― なんか、おかしなこと言い始めてる。

こんなところで、妙なことになったら面倒くさい。ここはトウコがいない以上、長居しないで、さっさと行ってしまった方がいいようだ。

タッくんがそろりと、まっすぐのびた列から逸れようと歩き始めた時、目の前の女の子が急に手を伸ばしてきた。

「ほら、おいでよ、ねぇ!」

「あ、ずるい!あたしも触りたい!」

抱きつかれそうになって、慌ててよける!

こういう女の子に絡まれたら、ここから逃げられなくなるのは目に見えている。

どうにか離れないと!

そう思ったところに、どこからともなくモンスターボールが飛んできた。

中から、戦闘態勢のミネズミが現れる!

『覚悟しろ!』

いきなり飛び出してきたミネズミは、鋭い前歯で噛みつこうとしてきた!

『やめろってば!』

タッくんは慌ててしっぽのムチでミネズミの体をはじいた!

衝撃で、後ろに勢いよく転がるミネズミ。

さっさと倒れて欲しいのに、まだ体力が残っているらしく、目を回しながらも起きあがろうとしている。

「あいつ、なかなか強いぞ!」

「ちょっと! 始めに見つけたのは私よ!」

よくみると、列に並ぶ人間達の表情が変わってきていた。

明らかに、自分を野生のポケモンだと思いこんで、誰が捕まるかで躍起になっている。

『ちょっと待って…。僕は野生じゃ…』

後ずさりしたタッくんの足下に、誰かが投げたモンスターボールがかすった。

空のモンスターボールだとわかって、一気に血の気が引いた。

このままここに居るのは、まずい!

急いで駆け出したタッくんの後ろに、何かが迫ってくる!

さっきのミネズミか、それともまた別のポケモンか。

もうどうでもよかった。

とにかく何かが追っかけてきている!

―― 逃げないと!

『僕は野生じゃないんだって! まったく何考えてるんだ!』

叫んでも、トレーナー達の妙な熱気は治まらない!

「待って!」

「逃げられる!」

誰かのトレーナーの声がした。

投げつけられたボールをかわして、タッくんは急いで店の側にあった薄暗い細い路地に走り込んだ!

ドスドスと重い音が後ろから響く。まだ何かが追いかけてきてる!

この重量感、いわタイプか、かくとうタイプといったところだろう。

『もう、いい加減にしろ!』

グラスミキサーを後ろに放ち、そのまま、振り返らずに路地の奥まで駆け抜けた。

真っ直ぐ続く道を、道の分かれ目を見つけては曲がり、ジグザグに進んで、相手を迷わせる!

しばらく勢いを殺さずに走り込んだあと、ようやく後ろから追いかけてきていた足音が消えていることがわかって、タッくんはほっとして壁にもたれかかって座り込んだ。

『なんでこんな目に…』

こっちの気も知らないで、なんてヒドイ。

まさか、野生ポケモンと見間違えられてこんな目に合うなんて…。

ほんとに捕まってしまっていたらと思うと、ゾッとした。

トウコと再会するまで、この町では容易に人に近づいたら危ないかも知れない。

よく考えたら、側に人がいなかったら、はぐれたポケモンだか、野生ポケモンなのかなんて、人間に区別がつくはずがないんだった。

もっと早く気づくべきだったか。

でも、そしたらどうやって公園で待てっていうんだ。

トウコが来るまで、草の茂みにでも隠れている他ないのかもしれない。

なんてことだ。これでますますトウコが遠くなった。

乱れた呼吸を整えて、タッくんは今度の場所はどこだと周りを見渡した。

随分、街の奥まで入り込んでしまったみたいだ。

けれど、来てしまったものは、もう仕方ない。

薄暗い道。

始めに入った細い小道と同等くらいの暗さだ。

幅はそれなりにあって、人が3人くらい並んでも余裕で通れそうだけれど、お世辞にも綺麗な道とは言い難い。

生臭い香りもする。

それもそのはずだ。

ポリバケツにはいれられているものの、あふれかえった生ゴミが、店の裏口のドアの前に散乱していた。

捨てられた食べ残しが入ったポリバケツは、店の裏戸に寄り添うように、蛇行しながらいくつも点在している。

とうやらここは、どこかの繁華街の路地裏のようだ。

歩く人も見あたらないし、不穏な雰囲気だ。

『なんか変な通りに来ちゃったなぁ…』

こんなところ、絶対にトウコを連れて来たくはないなと思った。

『とりあえず、先に進むか……』

時々、鼻が曲がりそうな匂いに顔を歪ませながら、妙に静かな道を進んだ。

どこまでも薄暗くて、じめついた道が続く。

周りを見渡しても、何もいないはずなのに、何かの気配がいくらかある。

見られているような、変な気分だ。

何かいるのか?

『気味が悪いな……』

時々、ビルの合間から遠くの人の声が聞こえてくるが、近くに人の気配はない。

ビルの合間から吹く風が、古い配管や、窓を揺らして、ガタガタ、キーキーと音を鳴らした。

何かがついてきているような気配はあるのに。

立ち止まって、後ろを振り返ってみても、何もいないのだ。

『いったい、なんだっていうんだ……』

ため息を吐いて、再び前に進み始めたときだった!

バサバサと羽音をたてて、真っ黒な影がゴミ箱の裏から姿を現した。

全身の鳥肌が立った!

声こそ出なかったが、叫ぶかと思った。

しかし、その影が見慣れたものだとわかって、ほっとした。

よくみると、ただのマメパトだった。

溢れた食べ残しをつつく、マメパト。

こちらに背を向けているせいか、全く僕には気づいていないようだった。

はじめてこの街でみた、野生ポケモンだった。

全く見かけないから、この街にはいないのかと思っていた。

―― なんだ、この街にもいるんじゃないか

正直ホッとした。

この街は迷路のようだし、地元のことは、ここに住んでいる奴らが一番詳しいんだ。

ここでコイツをみつけられてラッキーだった。

このマメパトに聞けば、きっと公園の場所だってわかるはずだ。

タッくんは、笑顔で話しかけた。

『あのさ!』

『!!』

タッくんが声をかけた瞬間、マメパトはこちらの姿をみるなり、慌てて飛び立った。

勢いの良い羽音が響いて、あっという間に見えなくなる。

そんなに驚かせただろうか。