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アズール湊
アズール湊
novelistID. 39418
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黒と白の狭間でみつけたもの (13)

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いきなり逃げることはないだろうに…。

呆然と立ちつくすしかなかった。

『なんだよ…冷たいやつだな…』

ふうと、ため息が出た。

『あなたに驚いたんじゃないわよ』

突然、声がして振り返ると、タッくんの背後にあったポリバケツの上に、チョロネコが立っていた。いつの間にいたのだろう。気配がまったくしなかった。

チョロネコは、どこから拾ってきたらしい形の整った焼き魚をくわえていて、タッくんを静かに見下ろしている。

『あなた新入り?』

『……いや、僕はなんていうか、はぐれて…』

突然のことで、上手く答えられなかった。

『ふ~ん』

そうだ、せっかく声をかけられたんだ!

道を聞かないでどうする。

「なぁ、この街に公園があるだろう? 道を知らないか?』

『ボスに挨拶はした?』

てっきり簡単に答えてくれると思っていた、チョロネコの答えは意外なものだった。

『ボス?』

『ここの決まりなの。ここに住むにも、道を尋ねるにも、ボスが認めるポケモンじゃなきゃ、誰も協力しないわ。 さっきのマメパトは、礼儀も通していないのに勝手につまみ食いにくる常習犯。見つかったら、街のみんなに攻撃されるのをわかってるから逃げたのよ』

クスリとチョロネコが笑った。

―― この街のボスだって?

森に住んでいた頃にも、その地域を束ねているポケモンがいたけれど、ここまで規律は
厳しくなかった。

挨拶しなければ、協力もしない。ってことは、下手をすると攻撃の対象にさえなるのかもしれない。

やっかいな風習だな。でも、それさえ守れば、早く目的地につけるならまぁいいか。

とにかく、ボスって奴に会わないと!

『じゃあ、ボスのところまで案内してくれない? 急いでるんだ』

『いいわよ』

チョロネコは、ポリバケツからぴょんと、地面に飛び降りると、魚をくわえたまま、スタスタと歩き出した。

『こっちよ、新入りさん』

『いや、だから新入りじゃないんだって…』

チョロネコが向かう先は、繁華街の裏通りのさらに奥のようだ。

タッくんも黙って続くことにした。

道を歩く中、ポリバケツの隅や、ビルの合間の壁の隙間から、ヨーテリーや、チョロネコ、ドッコラー、クルミルといったポケモン達が、数多く顔を覗かせた。

こんな都会の、こんな場所に、なぜこんなに多くのポケモン達が集まっているのだろう。

はっきりいって、食べ物がなければ石だらけの街。

決して住みやすいわけでもなさそうな気がする。

街を移動して、森に入った方がずっと住みやすいだろうに…。

『こんな街にポケモンがたくさんいるのが不思議? 新入りさん』

きょろきょろと辺りを見渡すタッくんの様子が気になったのか、チョロネコが歩きながら言った。

『だから、僕は新入りじゃなくて…』

タッくんの言葉に、チョロネコがため息をついた。

『そんなに意地はらなくてもいいのに…。ここに初めて来たポケモンって、みんなそう言うのよねぇ…、探してるんだとか、迷子になったんだとか…』

『何が言いたいんだよ?』

ちょっと、喧嘩を売ってきているんじゃないかっていうような物言いだった。

イライラとした。

ここで機嫌を損なわれて、地理をよく知っていそうなボスとやらに会えなくなるのも面倒だから、堪えたけれど…。

しかし、そんな思いもチョロネコの言葉で一気に冷めた。

『だって、あなたもトレーナーに捨てられたんじゃないの?』

『え…?』

『ここは、ダストストリート。人間に捨てられたポケモン達が集って暮らしている場所よ。この街の人間はみんなそう。いらなくなったら、ここに何でも捨てるんだから。ゴミも、私たちもね』

静かに告げた、チョロネコが進む前に、開いた空き地が見えてきた。

巨大なビルに囲まれた中、妙にぽっかりしている四方形の空き地は、一度はきっと更地だったのかもしれないが、今は中央に山になった瓦礫が高く積まれている。

よくみると、それは冷蔵庫だったり、電子レンジだったり、テレビだったり、またはコンクリートの断片や鉄筋だったりと、人間がつくりだした古いゴミが積み重なったものだった。

物は今もここに運ばれてきているのか、ところどころ崩れた瓦礫の中に、新しい家電や家具がぽつぽつ見てとれる。

元は、何かの建設現場か、工事現場だったのか、埃を被った黄色い看板や割れた赤い三角コーンが瓦礫を囲むようにして残っていた。

瓦礫の山から、顔を覗かせる何匹かのポケモンが見える。

『ダストストリート?』

『人間がそう呼んでいるのよ。ゴミ捨て場の通りだから。ひどいもんでしょ?』

何にも感じていないような口調で、チョロネコは言った。

もしかしたら、彼女はもうここに長く暮らしているのかも知れない。諦めているようにも見えた。

たどりついた、瓦礫の山を前に、タッくんは立ち止まって見上げるほか無かった。

捨てられたポケモン達が暮らす場所。

ダストストリート。

人間のガラクタに囲まれた、ゴミ捨て場。

こんな場所が?

『驚かせちゃったかしら?新入りさん。大丈夫よ、始めは戸惑うかも知れないけれど、ちゃんと暮らせるようになるわ』

黙って瓦礫を見上げながら、固まっているタッくんに、チョロネコが言う。

なぜだか、すごく哀しい気持ちになった。

こんな場所があったなんて、知らなかったから。

『ほら、行きましょう。新入りさん。ボスはたぶんガラクタ山の上にいるわ』

そう言って、歩きだすチョロネコについていきながら、タッくんはトウコのことを考えていた。

ずっと、一緒にいられると信じてる。

でも、もしも何かの歯車がかみ合わなくなって、一緒にいられないような状況になったら、こういう場所に来てしまうこともあるのだろうか。

このチョロネコだって、きっと、自分のトレーナーのことを信じていたはずだ。

どこか寂しげにみえる背中を見ていると、何とも言えない気分だった。

足下に硬いぱりぱりとしたものが触れた。

ひび割れてしまった、赤いモンスターボールだった。

ずいぶん砂埃をかぶっているけれど、中から出るときについたのか、それとも外からこじ開けたのか、無数の爪痕がついていた。

足場を間違えれば、すぐにも崩れてしまいそうな瓦礫の山を上りながら、タッくんは先を行くチョロネコに言った。

『……ごめん、僕は新入りにはなれない。君たちには悪いけれど……、僕には待ってくれているトレーナーがいるんだ。だから、ボスにあって道を教えてもらったら、僕はこの街を出て行くよ』

嘘をついてもいないのに、酷いことを言っている気がした。

チョロネコの表情が、少し曇ったように見えたのは、きっと見間違いじゃなかったはずだ。

『…そう。なら早くボスに会った方がいいわ。私たちみたいになっちゃうわよ』

そう言って、チョロネコは黙って歩いた。

積み重なった家電を飛び越えて、先へ先へと慣れた様子でガラクタ山を登っていく。

その後に続くタッくんの様子を、いつの間にか集まってきたこの街のポケモン達が、瓦礫の隅から静かに見ていた。

野生のように、すぐさま襲ってきたり、飛びついてこようとはしない。