黒と白の狭間でみつけたもの (13)
小ずるいことでも容易に考えていそうなのに、それがないというか…。
この男は、妙に素直でやりにくい。
『ああいいよ。でも、もういきなり炎で攻撃とかはやめてくれよな』
タッくんはそう言って、やどりぎのタネに意識を移した。
ゾロアにまきついていた、ツルの勢いが消える。
力が弱まり、タッくんの意思通り、やどりぎの活動は停止して、緑のツルたちは、茶色く変色して枯れていった。
Nは、枯れて弱くなったやどりぎのツルをちぎり、その中からゾロアを掻き出すようにして、救い上げると、傷ついた体を労るように腕に抱いた。
ゾロアは傷つきながらも、負けたことが気にくらないのか、タッくんのことを睨み付けるようにじっとみている。
「ありがとう。ボクのゾロアが悪かったね」
Nはにっこりと微笑んだ。
『もういいよ』
なんだかこっちが照れくさくなって、タッくんはそっぽを向いた。
こういうところが、ほんとにやりにくい…。
「君は、確かトウコのポケモンだったね。近くにいないようだけれど、この辺りに彼女も来ているのかい?」
『違うよ。きっとこいつ、はぐれたんだ。しつこく道を聞いてきたからな』
ゾロアがわざとらしく、口調を強めて言った。
やっぱり、こいつのこと、助けなきゃ良かったかな。
「はぐれたのか?」
『おおかた人混みの中で、むやみに外に出ていたんだろうさ。こんな大都会。慣れていなかったらはぐれることくらいわかるのにさ』
『ああ、その通りだよ!』
イライラとタッくんは言った。
得意顔のゾロアに腹が立つ。負けた腹いせにからかうつもりらしい。ほんとに嫌な奴だ!
ぎりぎりと睨み合う2匹を見て、Nは大きなため息をついた。
「もうバトルは終わったんだ。やめてくれ! 君も、喧嘩してる場合じゃないんだろう?トウコだって探しているはずだ。これからどこへ向かうつもりだい?」
『公園だよ。メインストリートはすべて公園に繋がっているって、トウコが言ってた。そこで待っていれば、むやみにトウコを探すより、出会う率が高いと思ったんだ』
「なるほどね、確かに効率はよさそうだ。あそこの公園なら噴水もあるし、待ち合わせるのにもちょうどいい。ここから程近いし、送ってあげよう」
そう言って、Nはガラクタの山を器用に降り始めた。
タッくんもそれを追いかける。
なんだよ、ゾロアよりもずっと、コッチの方が話がわかるじゃないか。
それにしても、こんな不安定な場所、よく人が降りられるな。
軟弱に見えたけれど、意外と運動神経もいいし、さっきの攻撃といい、トレーナーとしての素質もありそうだ。
変なやつだと思っていたけれど、意外とまともなのか?
ガラクタ山のふもとまで降りると、Nのまわりには不思議なことに、先程まで隠れていたここに住むポケモン達が駆け寄ってきた。
『N、また遊びに来たの?』
『ボスは大丈夫?』
『ねぇ、一緒に遊ぼうよ』
わっと賑やかな声が上がった。
あっという間に、Nのまわりはポケモンだらけだ。
なんだか知らないが、Nはここでポケモン達に好かれているようだ。
あまりに自然すぎて、うっかり忘れそうになるが、コイツは僕らの声がわかる珍しい質をもった人間だったっけ。
こうやって囲まれると、よけいに異質にみえるものだな。
「ごめん、今日は遊べないんだ」
『どうして?』
『あいつがボスを倒したから?』
『でも、あのポケモン、別に悪い奴じゃないと思うよ』
「そうだね。あのこは、ボクの大切なトモダチのポケモン。迷子のようだから、助けてあげたいんだ」
Nがそう言うと、周囲のポケモン達が一斉にタッくんのことをじっと見つめた。
一瞬、いきなり襲ってくるんじゃないかとひやひやしたが、どうもそういうつもりじゃあないらしい。
『なんだ、新入りじゃないんだ。つまらない』
『そういうなよ、助けてやろうぜ』
『そうね、Nの友達なら。N、私たちに手伝えることはない?』
そう言ったのは、よくみると先程、ゾロアのところまで案内してくれたミーナだった。
タッくんの視線気づいたのか、クスリと笑っていた。
「ありがとう。なら、手伝ってくれるかい? トウコという女の子を捜したいんだ」
Nがトウコの特徴を、口頭で説明する。
結構、細かい説明なのに意外とわかりやすくて驚いた。
話し終えると、ポケモン達は言った。
『わかった。見つけたら、公園に連れて行けばいいんだな』
『それで、トウコって子を見つけたらどうすればいい? その子はNみたいに話せないんでしょ?』
「ああ、トウコはボクみたいにしゃべれないよ。でも、大丈夫さ」
ん? 大丈夫だって?
タッくんが違和感を感じたまま、Nは早口にしゃべりだす。
「トウコはしゃべれないけれど、確か直に体に触れることが出来れば、少しは心が伝わるはずだから……」
『ちょ、ちょっと待った!』
Nの言葉を止めたのは、タッくんだ。
こいつめ、放っておけばべらべらと…。
『おまえ、トウコがそのことにあまり触れられたくないことは、知っているだろ? まさか、ポケモン達に探させる方法って、トウコらしい人物に抱きつきでもして、感情なり言葉なりを伝えるつもりなのか?』
「それが一番、効率がいいじゃないか」
Nは何を、そんなに気にしてるんだとばかりの表情で、そう言い切った。
やっぱり、こいつは油断ならない……。
『たのむから、それはよしてくれ。 言葉の説明だけじゃ、絶対イメージがみんな違うから、何人もトウコじゃないやつにも飛びかかるぞ!その場合の、街の混乱も考えてくれよ!』
そんなことしたら、下手をするとトウコの力まで、街の連中にばれるかも知れない。
好奇の目にさらされて悲しむのはトウコだ。
この男は、自分もそういう目で見られてるっていうのに、そのことに全くもって鈍感だ。
「……確かにそれは面倒だね」
難しそうな顔をして考え始めたNをみて、腕の中のゾロアがもぞもぞと動いた。
『N、アレを使えばいい。トウコにもらったアレ、みんなに分けてやればいい』
Nの腕の中にいるゾロアが声を上げた。
「いいのかい?」
『いいよ。トウコを捜すためだろう。無くなっても仕方ないさ。アレにはまだトウコの香りが少し残ってた。匂いを覚えればトウコを捜すのだって楽になる』
ゾロアはそう言った。
アレが何かはわからないが、トウコの匂いがついたものがあるなら、捜索も確実だ。
ポケモンは人間よりずっと嗅覚がいい。
匂いがわかっていれば、確かめられる。
さっきNが言った情報と共に捜せば見つかるだろう。あいつもたまにはいいことを思いつくじゃないか。
タッくんが感心しながら、ゾロアを見たときだった。ゾロアは目があうなり、睨みをきかせてきた。
『おまえの為じゃないからな。トウコのためだぞ!』
ふんっと、不機嫌そうにそっぽを向くゾロア。
ああ、そうかい、そうかい…。何もそんなに恨みがましく見てくることはないだろうに、何をあんなに怒っているんだ、あいつは。
呆れながら、タッくんは思った。
だいたい、アレってなんだ?
トウコがあいつにあげたものなんてあっただろうか。
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (13) 作家名:アズール湊