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アズール湊
アズール湊
novelistID. 39418
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黒と白の狭間でみつけたもの (13)

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そう思い返しているとき、Nがポケットからとりだした袋紙をみて、一瞬で謎が解けた。

小さく折りたたまれて、くしゃくしゃになったポケモンフードの袋。

普段、僕らが食べているのと同じだ。

そういえば、僕らがふがいなかったあの日、助けてもらったあいつにトウコはポケモンフードの残りを渡してあげていたっけ。

あんな残り少なかったものを、まだ持っていたのか。

しかも残っているのって、あの様子じゃ数粒ってところじゃないか?

『何それ?美味しそうな匂い』

『食べていいのか?』

周囲のポケモン達が騒ぎ出した。

「トウコからもらった、ゾロアの宝物なんだ。ほんの少しだけれどトウコの匂いが残っているらしい。食べていいようだから、捜してくれるかい?」

『捜す!捜す!』

『早くちょうだい!』

食べ物の匂いと、Nの言葉に、ポケモン達が多く駆け寄ってきた。

取り合いになりそうな空気がたちこめたのを感じたのか、ゾロアが言った。

『残り少ないんだ!大事に食べるんだぞ! あくまで人捜し用なんだから、協力できない奴は食べるなよ』

傷だらけになったとはいえ、ここのボスだったゾロアの声は絶対のようだった。

地面にまかれた数十粒のポケモンフードに、群がったのは数匹のポケモン達だけだった。

残りのポケモン達は、静かにそれを見守っている。

それでも、あっという間に無くなったポケモンフードを見て、ゾロアは小さくため息をついていた。

「集合場所は中央の公園。道は枝分かれしているけれど、君たちならわかるだろう? トウコというトレーナーをみつけて、なんとか連れてきてくれ!」

Nがそう言うと、数匹のポケモン達がダストストリートを四方八方に駆け抜けていった。

「さぁ、僕たちも公園に向かおう」

ゾロアを抱いたNが、足早に歩いていく。

こっちの様子なんかほとんどお構いなしだ。

慌てて、タッくんはNの後ろに続いた。

その側に、チョロネコのミーナが寄り添ってきた。

『あなたボスに勝ったんだって?やるじゃない』

『まぁね、君は捜索にいかないの?』

『私は、そういうの苦手だから』

くすりと笑うミーナ。

なんとなく、苦手だというのは嘘のような気がした。

面倒だったのかも知れない。

『でも、びっくりしちゃった。あなた、ボスとも、Nとも顔なじみだったのね』

『顔なじみって言うか……』

望んでもいなかった腐れ縁かな…。

そう思ったが、声には出さなかった。

『なんていうか、知り合いなんだ。 ところで、君たちはこいつら……え~と、Nたちとはどういう関係なんだ? 随分前から知り合いみたいじゃないか』

『あら、そんなに前から知り合いなわけじゃないわ。ここ最近よ、よく話すようになったのは。Nたちがやってきたのは、ちょうど一週間くらい前だもの』

一週間前っていったら、ちょうどあの事件の後だ。

一週間もこの街に居座っているのか?

このダストストリートに? 何のために?

『Nったら、ここに初めて来たとき、泣いたのよ?』

クスクスとミーナが話す。

『泣いただって?』

『そうよ、驚くでしょ? Nったら、私たちが可哀想だと言って泣いたのよ。そんな人間、初めてだったわ。しかも私たちの言葉までわかるし、ちょっとしたお祭り騒ぎみたいになったんだから』

ミーナは嬉しそうに話した。

よく考えたら、ここはトレーナー達に捨てられたポケモン達のたまり場だ。

きっと、久しぶりに人に触れて、うれしかったんじゃないだろうか。

『そっか。でも、やっぱりNって結構変わっているだろ?話とかも』

話す内容はかなりトンチンカンだ。

根っから悪い奴じゃないのだけれど。

タッくんの言葉に、ミーナは笑った。

『確かに変わっているかもね。Nは世界を変えるつもりみたいだし!』

やっぱりそういうこと言っているのか…。

『でもね、私は少し信じてみたいかな』

ミーナの言葉に、タッくんは目を丸くした。

『人は嫌いじゃないけれど、私たちみたいなポケモンを増やしたくはないの。人間は確かに愚かなところもあるでしょ? もし、Nがいう全てのポケモンが解放された世界ができたとしたら、もう私たちみたいに傷つくポケモンはいなくなるんじゃないかって思ってね』

傷つくポケモン。

ほんとにいなくなるんだろうか?

ミーナが言うと、言葉が重くなって聞こえた。

それでも……。

『……僕は嫌だな』

『え?』

『だって、僕はトウコと離ればなれになりたくない。確かに君らを捨てたトレーナーは悪いし、君たちみたいなポケモンは、増えて欲しくない。 けれど、全てのポケモンが解放されるって事は、トレーナーとポケモンを引きはがすってことだろ?僕はそんなのは嫌だ』

そんなの、認めたくない。

勝手だと言われても、それでも…。

『……ふふ、あなたは良いトレーナーに出会えたのね』

うらやましいわと、ミーナが言った。

『ミーナだって、また出会おうと思えば、会えるよ。この街以外にも、人はたくさんいるんだから』

『そうかしら?』

『そうだよ』

話ながら、ふと前を見ると、いつの間にか随分とNの姿が小さくなっていた。

ミーナと話し込んでいるうちに、若草色の髪のトレーナーと、随分距離をつくってしまったらしい。

こちらが話しながら歩いていたとはいえ、そんなに遅く歩いていたつもりもない。

もちろん、前の青年も走っている様子はなかった。

いったいどんな歩き方をしているんだと呆れてしまう。

慌ててミーナと共に走り、やっとこNに追いついた。

Nはこちらをちらりとみたが、特に何も言わなかった。

いつもこんな感じなのかもしれない。

きっと、あれだけ離れていたから、話の内容も聞こえなかったのだろう。

聞こえていたら、もしかして、少し反論されるんじゃないかと思っていたから、タッくんはホッとしていた。

『私もこの街、出てみようかな…』

『ん?』

『なんでもない』

ミーナが何か言ったようだったが、聞き取れなかった。

けれど、なぜかミーナはうれしそうな顔をしていたから、きっといいことを言ったんだろう。

ダストストリートの延長である、ビルに挟まれた細い街道を抜けると、そこには緑豊かな広場があった。

中央には白くて丸い噴水もある。

全体をボールみたいに丸く整えられた大きな広場は、この街の憩いの場となっているようで、ベンチに腰かけて読書をしたり、話し込んだりしている人が目立った。

公園だ。

あれだけ探していた場所に、ようやくたどり着けたのだ。

「さぁ着いたよ。ここが君の探していた場所だろう? トウコも、捜しに行ってくれたポケモン達も、まだのようだね」

Nのいうとおり、タッくんも辺りを見渡してみるが、トウコらしき姿は見えない。

先回りできていたのかは怪しいが、とりあえずはトウコと再会する、第一歩を踏みしめたかんじだ。

なんだかんだで、今回はこいつらに世話になっている。

タッくんはNの白い服の裾をくいっと引っぱった。

『ありがとう。連れてきてくれて』

振り向いたNにそう言うと、彼はにっこりと微笑んだ。

「どういたしまして」