世界一初恋 高x律 葛藤
【SIDE 律 Bパート 4/6】 -----------------------
父が二か月前に倒れたこと
現場復帰する間、補佐として仕事をすること
その代わり、条件として
小野寺を継がなくてもいいこと
婚約破棄も結婚も俺の意思で決めていいこと
静かに俺の話しを聞いていた井坂さんは、話し終わると「ハァー」と溜め息を付き
俺に向かって言った
「今時、世襲企業なんて流行らねーよ。俺だって別に結婚しようとか思ってないし」
俺は「え?」と顔を上げて井坂さんのことを見た
「大体さぁー人生なんて一回しかないんだぜ?自分の好きにして何が悪いんだ」
「小野寺さんは龍一郎様と違って真面目なんですよ」
「うっせーな!好きな事をして何が悪い。親には感謝してるが、子供の人生まで口出しされたくないね」
もう一度ハァーと溜め息を吐いたと思ったら、井坂さんは朝比奈さんに向かって「お前はどう思う?」と尋ねる
「もし、私が小野寺さんの立場でしたら、条件を呑んで苦労を買って出ると思いますよ。
すべての柵(しがらみ)を取り除くことのできる条件ですからね。」
井坂さんは朝比奈さんの返事に少し目を細め「本気で言ってんの?」と聞くと「本気ですよ」と
返事がかえってえきた
俺は自分の話しをしていたハズなのに、何故か二人が険悪なムードになりつつあって、少し躊躇っていた
「私の場合は、一生一緒に居たいと思う人がいますからね。
その人の為ならば、苦労を買ってでも自由になる為の条件を呑みます。
小野寺さんも同じなのではないでしょうか?」
急に話しを振られ、オドオドしてしまった
そんな俺に向かって井坂さんは少し考えた後、「・・・好きな奴いるの?」と茶化さず真剣に言葉を紡いだ
「・・・はい・・多分・・・」
俺は俯いてグルグル考えていた
普通に好きな人がいるのなら、その人と結婚すればいい
でも結婚したくないと話した
それって、結婚したくても出来ない理由がある訳で・・・そう同性だから・・・
敏い井坂さんなら気付いたかもしれない
もちろん朝比奈さんも・・・
「そっか。そうだったんだ」
ポンと掌を叩くような仕草をした後、井坂さんは朝比奈さんにチョイチョイと招き、
何するのかな?と思って見つめていると、いきなりラブシーンが始まった
「えっ!えーーーーーー!?」
思わず俺はソファーからずり落ちそうになり、大声を出した口を慌てて押さえた
もう遅いけどね・・・
涼しい顔で井坂さんはニヤリと笑い「やっぱり”同じ境遇”なんだな」と一人納得している
俺は顔が赤いまま、どうしていいのか解らず、やっぱりオドオドしてしまう
「龍一郎様、いくらなんでも人前でこのようなことは謹んで頂けませんか?」
「別に隠してなんてないから俺はいいの」
呆気に取られている俺を無視して、井坂さんはドヤ顔のままだった
「で、親父さんの体調は?」
急に真面目な話しをされた
「えっと・・大分調子は良いみたいです。微熱は続いてますが、食欲はあるみたいです」
うーん。もう少し掛りそうだな・・・と井坂さんは腕組みをして考える
朝比奈さんは冷めてしまったコーヒーを淹れなおしてくれた
「さっきも話したけど、時間の問題なんだ。そろそろバレる。
多分、七光りが一番知られたくないであろう人物に」
え?それって・・・・
「鬼の編集長様は鋭いからな」
ニヤニヤ笑いながら、淹れたてのコーヒーを口に含み「どうする?」と聞いてくる
どうするって言われても・・・
気付かれでもしたら、査問のような尋問が始まるのは間違いない
そこで本当の理由なんて話したら、今までの苦労が台無しだ
青くなった俺の顔を、楽しそうに見ながら井坂さんはポツリと呟いた
「手を貸してやる」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、「これは貸しだからな」といって涼しい顔をしている
「あ・・あのっ・・俺個人の問題でもあるので!」
尻つぼみしてしまった・・
結局”七光り”にあやかって、普通の人なら専務に『手を貸す』なんて云われない
これは俺が”小野寺出版の御曹司”だから手を貸すってことだろう
そんなのは俺自身が許せないと思った
「お前さ。自分の立場を利用しようって思わないの?
七光りよろしく!だろ?一般じゃ一光さえもないぞ
それに、今回の件は俺が個人的に”お前のことが気に入ってる”から手を貸す
まぁーあれだ!暇つぶし程度に考えてくれればいい。」
「龍一郎様。そのような云い方では本心は伝わらないかと思いますが?」
「いいんだよ。コイツはなんか知らねぇーけど、家柄に囚われすぎなんだ。
俺が個人的に手を貸すことには問題ないだろう?」
”落としの井坂”
流石と云ったところかな・・・今この丸川で頼れるのは井坂さん達しかいない
事情を知った上で、”個人的”に手を貸してくれるという悪魔の囁きに頷いた
「よし!作戦会議だ!」
おもちゃを手に入れた子供の様な井坂さんの表情は、多分一生忘れないだろう・・・
作品名:世界一初恋 高x律 葛藤 作家名:jyoshico