世界一初恋 高x律 葛藤
【SIDE 律 Bパート 5/6】 --------------------------
『文芸部署に欠員が出た』
井坂さんの話しによると、体調不良で入院した編集担当の代わりを探しているとのことだった
新刊ラッシュで文芸部も人手が足りず、経験者を探しているという
入院した編集者は2カ月程度で退院可能らしい
角先生の編集担当だった長谷川さんは、入院した編集者のサポートに廻っており、
先生の担当を長谷川さんに代わって俺が引き継ぐという内容だった
俺と高野さんは井坂さんに呼び出され、経緯を説明された
「七光りは文芸編集として三年の経験者だ
また、角先生ご指名だから無碍に断れない
エメ編から一時的に抜けることは痛手だと思うが、そこは高野がなんとかするだろ?」
「二か月の間なら、なんとか分担してやり繰りはできます」
「なら、いいよな?」
「既に決定事項なんですよね?」
「まぁーね。一応直属の上司に確認しないと筋が通らないだろ?」
「それなら、俺が断る理由はありませn」
「じゃ、早速だけど七光りは角先生の家に行って原稿チェックよろしく」
「・・・・はい」
俺と高野さんが部屋を出ようとした時「七光り、話しがある」と言って俺だけ引き留めた
「何ですか?」
「お前も知ってると思うけど、角先生は優良作家だ
締め切りも守るし、担当者に我儘は云わない」
井坂さんの作戦とは、俺を文芸部署へ一時的に移動し、高野さんの監視から目を逸らすこと
さらに、角先生は担当者が手を焼かなくても納期通り仕上げる為、時間に余裕が出来る
その間に、俺は別の案件--小野寺出版側の作業を行い両立を図る
全く持って力技的な感じはあるが、俺は貴重な時間を得られる
「これで少しは楽出来るだろ?」
ニヤリとドヤ顔で俺を見て、「俺って天才!」的な発言をする
「・・・ご迷惑を掛けし、申し訳ありません」
一応、ここまで手を廻してくれた井坂さんに感謝の礼を述べると
「まぁー後はお前次第だ」と井坂さんは肩をポンと叩き
「鬼編集長に気付かれるなよ」と小声でいう
コクリと頷くと「じゃ早速よろしくな!」そう云って俺を部屋から追い出した
*
角先生の自宅にて、俺は他社の資料を読んでいる
井坂さんが先生にどう説明したか知らないが、角先生は何も言わず自室で執筆作業をしている
そう言えば、三週間ぐらい高野さんとは休憩室で立ち話しをした以外、接触はない
元々不規則な生活な為、朝晩と逢うことはなかった
殺風景な部屋の中で、ただ時計の針の音だけが鳴り響く
自分の我儘で周りの人を巻き込み、なんだか本当俺ってダメな奴・・・
結局一人じゃ何もできなくて、いつまで経っても子供のままだ
少し自己嫌悪に陥り、軽く頭を振って気を入れ直す
*
角先生から原稿を受け取った後、文芸部署へ戻り再度チェックする
現在先生は隔週連載中の小説を執筆しており、今度一冊の本に纏めて発売することが決まっている
昔から文芸が好きだった
だから一時的とは言え、文芸部で編集の作業が出来ることは嬉しい
今回はイレギュラーなことだったが、井坂さんには少し感謝している
でも、俺が戻る場所はエメラルド編集部だ
最初は嫌だ!と考えていたが、それは偏見でしかなかった
仕事は辛いし、作家は暴走するし、編集長は俺様だし
それでも、”戻りたい”と思うのは、何故だろう・・・やっぱり高野さんが居るからなのだろうか・・・
*
帰り支度をしていると、井坂さんが様子を伺いに来た
「おう!七光り!帰るのか?」
「お・の・で・ら・です!」
「お前なんか元気ないな?どうした?」
俺はビクッとし、固まっていると「なんだよ。今更だろ?」とくしゃりと髪を掻きまわされた
「いや・・あの・・最近・・高野さんに逢ってないような気がして・・・」
すみません!変なこといって!と俺は急に恥ずかしくなり下を向いてしまった
「あーーそうだな。不安か?」
えっ?と顔を上げ、思わず井坂さんの横顔を凝視してしまった
「俺の感だと・・・多分お前のことを少し避けているような気がするなー」
余所余所しいって感じか?と淡々と言葉を紡ぐ
「俺を・・避けてるってことですか?」
「そんなに心配なら聞いてみればいいだろ?」
「龍一郎様、小野寺さんの不安を煽るようなことは言わないでください」
黙々と運転していた朝比奈さんが、見るに見かねて口を出してきた
「別に煽ってないだろ?俺が思ったことを話しただけだし」
「それでも、今の小野寺さんにとって不安が募るばかりなのですよ?」
気にしないでくださいね。と朝比奈さんは静かに俺にいうが、
一度芽吹いた不安の種は一気に芽を出しスクスクと俺の心を縛り付ける
作品名:世界一初恋 高x律 葛藤 作家名:jyoshico