世界一初恋 高x律 葛藤
【SIDE 律 Cパート 4/5】 ---------------------------
角先生の新刊制作も順調に終え、そろそろ文芸部へ来て2カ月が経とうとしていた
結局、高野さんとは一カ月程会話をしていない
カレンダーを見ると、そろそろエメ編は修羅場な時期か・・などと考えてしまう
一息入れようと休憩所に入ると、タイミング良く携帯が鳴った
安岡さんからの電話で、引っ越しが完了したとのこと
結構、アッサリと離れられるもんなんだなぁー
長椅子に腰かけ、缶コーヒーを飲み、ふぅーとひと息
さて、戻るかな・・と立ちあがると、井坂さんが近づいてきた
「お疲れ様です。珍しいですね?休憩所で逢うなんて」
今、この休憩所には俺と井坂さんしかいない
井坂さんはズイッと俺の耳元で「新居どこ?」と聞いてきた
「え?ちょっ・・・何で知ってるんですか?」
井坂さんは人差指を左右に振りチッチッチッと言った後に「俺の情報網を甘くみんなよ」と
デコピンされた
「イタッ」
無防備な額を急に叩かれ、長椅子に座りこみ額を擦った
「最優先懸案事項とやらは、お前自身でケリを付けたったことか?」
座ってる俺に向かって井坂さんは腰を落し覗き込んでくる
「・・・そうですね。俺が決めました」
「そうか。なら俺は何も言わない。これ以上言うと朝比奈に嫌味を言われるからな。
だけど覚えておけ。
”俺達”は半端な覚悟で一緒にいる訳じゃない。
お互いを支え合いながら、今の”俺達”がいるんだ」
じゃぁな。とヒラヒラと手を振って休憩所を出て行った
俺は井坂さんが何を言いたかったのか解らないまま、後を追うように文芸部へ戻った
*
文芸部編集長に確認したところ、入院していた担当者は、現在自宅療養中だと聞いた
つまり、担当者が戻ってくるまでは、俺はエメ編に戻れないということ
良いのか・・・悪いのか・・・
ブツブツ考えながら、ロビーを横切ると、
喫煙所で高野さんと横澤さんが楽しそうに話しているのが見えた
久しぶりに顔みたな・・・修羅場中なのに結構余裕そうだし
気付かない振りをしてもいいのだが・・・
一応社会人として上司に挨拶するのは礼儀だろう
俺は「お先に失礼します」と声を掛け、自動ドアの前に立ち会社を出ようとした
「小野寺」
と高野さんに声を掛けられれ、へ?と振り返る
「何か?」
「いや・・明後日・・」
と高野さんが言いかけた時、「律様!」と声が重なった
え?と思考が定まらない内に俺の腕を安岡さんがガシッと掴み
引きずられるように車の後部座席に乗せられ、車が走りだした
「ちょっ・・安岡さん!」
「危ないですのでシートベルトをお付け下さい」
渋々大人しく後部座席で項垂れていると、安岡さんが「出過ぎた真似をして申し訳ございませんでした」と
信号待ち中に話しかけてきた
俺は黙って彼からの続く言葉を待っていた
「今、あの方とお会いするのは律様のためにならないと判断致しました
折角、律様が心を痛め決断されたのですから」
「・・・・・・」
「それからもう1つ。これは別件ですが、旦那様の周りで不穏な動きが見受けられます」
「なにそれ・・・」
続きはご自宅に着いてから致します。と静かに告げた
さっきまで、高野さん俺に何か用事でもあるのかな?と考えていたが
安岡さんの”不穏な動き”の方が気になって、他のことは頭の端へと追いやった
*
新しい自宅に着き、辺りを見回す
全て荷解きもされており、配置も以前とあまり変わらない様子だった
安岡さんはコーヒーを淹れ、ソファーの前にあるローテーブルへ運んでくれた
「先程の件ですが」
”父の周りで不穏な動き”の件だろう
俺は「うん」と答え、続きを催促した
「現在、英国に新しい子会社を立ち上げ、本格的に始動させるために
上層部が慌ただしく動いていることはご存知ですよね?」
「知ってる」
役員会議でも何度か話題になった
「その子会社の新社長に律様が挙がっております」
え?なんですと?
呆気に取られていると、安岡さんは淡々と話を続けた
「・・・旦那様の書斎にて律様を新社長にするという話しを小耳に挟みました
恐らく、近いうちに役員決定されるかと思われます」
「そっ・・そんなハズないよ!だって・・俺父さんと約束したのに・・・」
「確証が取れるまで・・・週明けまでお時間を頂けますか?
律様が今動かれるのは得策ではありません。」
混乱した俺は安岡さんに何を話したのか覚えていない
ただ、父に裏切られた、騙された、との思いが膨れ上がり、目の前が真っ白になった
作品名:世界一初恋 高x律 葛藤 作家名:jyoshico