世界一初恋 高x律 葛藤
【SIDE 律 Dパート 1/2】 ---------------------------
週明け、俺は自席で次の企画書を作成している時、ボスッと頭に圧し掛かる重みに驚き
振り返った
井坂さんが丸川のキャラクター「ティンクル」のぬいぐるみを俺の頭の乗せている
「お・・お疲れ様です」
何故ティンクル?
「おう。小野寺。ちょっと話しがあるから着いて来い」
いつもなら「七光り」と呼ぶのに、今日に限っては「小野寺」と声を掛けてきた
何やらイヤな予感はしたが・・・言われるままに井坂さんの後に続く
社長室に入ると、井坂さんが座れと顎で指示する
「来月の8日に小野寺出版主催のパーティーがあるの知ってるか?」
「あ・・はい。聞いてます」
「趣旨は、聞いてるか?」
「え?」
父から聞いているのは、年末恒例の納会の様なもので、
別段気にすることは無いと聞かされていた
「小野寺出版は海外進出するんだってな」
すごいなーと棒読みのように話す
「えぇ・・英国に翻訳も含め本格的に進出するって話しですよね?」
「子会社の新社長は誰だか知ってるか?」
ビクッとした
何故なら、先週末に安岡さんから聞いたばかりだから・・・
「・・・・まだ・・・正式には・・・決まって無いと思いますが?」
そう。今の俺が掴んでる情報では”正式”な情報ではない
現在、安岡さんが調べてるハズだが
「来月の小野寺出版主催の海外進出記念パーティで正式発表ってもっぱらの噂だけど?」
ズイッと井坂さんは身を乗り出し、俺の顔を直視する
「・・・・・・」
無言のまま俯いていると、俺の携帯が鳴った
井坂さんが「出ていいよ」と言うので、俺は相手を確認せず着信した
『律様』
「安岡さん、どうしたの?」
『落ち着いてお聞きください
子会社設立後の新社長は律様が就任することが本日決定されました』
「は?」
『迂闊でした・・・役員会は今週末開催されるハズでしたが、
旦那様が早急に進め、今朝方テレビ会議にて既決されました』
俺は無意識に井坂さんの顔を見上げてしまった
恐らく話しの内容が分かったのだろう
ソファーに深く腰掛け、「ハァー」と溜め息をつくと、目を細め俺を見つめた
安岡さんには「後で連絡する」と一言だけいって電話を切った
「俺が・・・就任することが今朝決まったそうです」
「そっか・・・・
お前さ、優しすぎるんじゃない?
自分の両親を疑うのは無理かもしれないけど、もう少し危機感覚えた方がいいぞ」
胃が痛い・・・
何だかここ数日で色々あり過ぎた・・・
疲れもあるけど、結局俺は井の中の蛙で、世間知らずってことなのか・・
大事な人を見失い、必死にしがみ付いていた希望は崩れ、結局は何も一人じゃ出来ない
俺は姿勢を正し、「井坂さん」とハッキリとした口調で彼を見たまま続けた
「今までありがとうございました」
井坂さんはただそっと目を瞑り「話しは終わりだ」と退室を促した
社長室から出た俺は、文芸部へ戻り手早く鞄をとる
ロビーへと向かいながら、安岡さんに連絡する
「父に逢う」そう一言告げると「お迎えに参ります」そう言って、電話を切った
会社を出て、ビルを見上げる
短い期間だったけど、とても良い職場だった
最初は少女漫画なんて俺には無理!って思ってた
でも、作家さんもアシさんも皆優しくて、一緒に良い作品を創ろう!って団結してて・・
そりゃ校了直前になると、早く人間に戻りたい・・・なんて毎回思ってたけどさ
丸川に転職したから、高野さんに逢えた
高野さんには、沢山「好き」の言葉を貰った
だから大丈夫
もう・・・昔の俺じゃないから
作品名:世界一初恋 高x律 葛藤 作家名:jyoshico