世界一初恋 高x律 葛藤
【SIDE 律 Dパート 2/2】 ---------------------------
実家に着くなり、寝室にいる父の元へ駆けつけた
「どういうこと?」
安岡さんから聞いた話しを父にすると
「もう知ったのか。早いな」と然も平然と答えた
「俺、約束したよね?!復帰するまでの間だけ補佐をするって!」
何で?と問いただすと「海外進出にはお前の力が必要だ」と冷静に返された
「はっ!息子を騙して、会社の駒にするの!」
声を荒げて言うと、「律!」と父も負けじと大きな声で俺を呼ぶ
「いい加減にしなさい!お前は一人息子なんだぞ?」
「そんなこと今更言われなくても知ってるよ!」
「知っているのなら、自分の立場を考えなさい!」
ピシャリと言い切る父の声は、もう病人ではなく、大企業のトップとしての貫録が見え隠れする
「・・・・・・」
自由になりたかった・・
全ての柵(しがらみ)を捨てて、自分の思いのまま自由に・・・
それすらも許されないのか・・・
「正式発表は、来月の会見場の席で行う」
それまでの間に身辺整理をしなさい。と突き離すような口調で告げる
もう決定事項だ!と言わんばかりの強引さだ
俺は放心状態のまま、父の寝室を出た
*
自室で考えた
結局何も思い通りには進まなくて
だったら最初から何も求めなければ良かったと・・・
欲張って、両方手に入れたかったのに、最終的には両方とも失った
井坂さんの様に強くはなれない
実力もなければ、運もない
いくら虚勢を張っても、弱さは隠せない
本当に疲れた・・・このままあやつり人形のように一生踊ってるのかな
一生・・・ずっと・・・俺は一人で闇の中を彷徨うのかな
出口の見えないトンネルは、気が狂いそうな程真っ暗で何も見えない
*
翌日、社長室へ直行し、井坂さんに父と話した内容を伝えた
今まで親身になって、色々迷惑を掛けていたんだ
身内事情だが、きちんと最後まで伝えるのは筋だと思ったからだ
本来であれば、辞表は上司である高野さんに提出するのだが、
井坂さんが「俺が預かる」と言って、内ポケットの中にしまった
エメ編への挨拶も、急なことだから井坂さんから伝えると言われ
結局俺は何もしないまま、丸川書店を後にした
呆気ないものだと思う
外に出た俺は、空を見上げた
しがみ付いていた上司と部下という関係すらも、手放してしまった
今の俺の気持ちと裏腹に、青く澄んだ空はどこまでも続いていた
作品名:世界一初恋 高x律 葛藤 作家名:jyoshico