世界一初恋 高x律 葛藤
【SIDE 律 Aパート 3/6】 ---------------------------
それから数日後、エメ編で一人残業中だった俺は帰宅準備をしていた
ブーッブーッブーッブーッブーッブーッブーッ
マナーモードにしていた携帯が鳴ったので、手に取ってみると「実家」と表示がある
慌てて着信にすると、母から「すぐ戻って来て欲しい」と言われた
いつもなら断るのだが、母の声を聞いた時胸騒ぎがした
幸い今日は金曜日でもある為、俺は「わかった」と短く伝えた、鞄を持って出た
「小野寺?帰るのか?」
会議から戻ってきた高野さんと4階エレベータ前ではち合わせになり「お先に失礼します」と
乗り込もうとしたら腕を引っ張られた
「俺も終わったから一緒に帰ろう」
「今日実家に行きますので」
そう言うと「泊ってくるの?」と切ない目で見られてしまい、俺はフイッと視線を逸らし「多分」と
返事をし、もう一度「お先に失礼します」と、そのままエレベータに乗って会社を後にした
*
自宅に帰ると、母が慌てた様子で近づいてくる
「よかったわぁー律、帰って来てくれて」
玄関で母に抱きつかれ、「何かあったの?」と尋ねると「今日お父さんが倒れたのよ」と
小さな身体を震わせながら答えてきた
「え?父さん病院にいるの?」
「いいえ。大丈夫だからって、今寝室で寝てるわ」
「いつ倒れたの?」
「食事が終わった後に・・・もう・・吃驚して・・・」
ポロポロと泣きながら、恐らくその時の様子を思い出したのだろう
俺は鞄をリビングに置き、両親の寝室へと向かった
部屋をノックすると、「どうぞ」と声が聞こえ、父が起きていることがわかった
「倒れたんだって?大丈夫なの?」
ベットに近づきながら声を掛けると、父は静かに「ああ」と答え俺の目を見つめる
ベット脇にある椅子に腰かけながら「起きてて大丈夫なの?」「医者に診てもらったの?」
と父に聞くと「大丈夫だ」と少し掠れた声で答えてきた
俺は一安心し、ふぅーと息を吐き出し「母さん心配してたよ」と苦笑いをする
「律」と父が低い声で呼ぶので「何?」と答えると「大事な話しがある」と言って
俺の顔をジッと見つめる
俺は少しビクッとなった身体を気付かれまいと平常心を保ちつつ
父の言葉を待った
「私も若くない。今後また倒れることもある。」
この先、何を言いたいのか何となく俺にだってわかる
”戻ってこい” ”結婚しろ” ”家を継げ”
恐らくそんなところだろう
何も相槌をすることなく、俺はジッと父を見つめ返し黙っていた
「律が七光りだなんだと言われてキズついたことも知っている
家業を継ぎたくないのなら、それでもいい
婚約破棄をしたいのなら、律に任せる
結婚だって、望まないなら無理強いはしない
”約束”しよう。だから・・・」
俺の膝の上にあった手を父は軽く握り「暫くの間、私の補佐をしてくれないか?」
と、俺が思っていなかったことを言い出した
「は?」
思わず素っ頓狂な返事をしてしまったが、父は真剣な眼差しを向けている
「・・・補佐って・・・何するの?」
「私の代わりに、社長補佐として手伝ってほしい」
「な・・何言ってるの?俺丸川の社員だよ?」
そんなことは知ってる。と父は呟き話しを続ける
「お前には辛いだろうが、小野寺出版の社員達にも大切な家族がいる
今、私が業務を滞らせると、彼らに迷惑がかかり、皆が大切なモノを失ってしまう
考えてくれないか?」
「・・・・・」
「律・・・お前が丸川出版を辞めたくないのなら、それでもいい」
「え?」
「その代わり、家に戻ってこい」
「そっ・・それは!結局、最後は家を継げってことじゃないの?」
「流石に二社掛け持ちなんて出来ないだろう?」
「・・・・・」
「律」
「俺は丸川を辞めたくない、でも小野寺出版のことだって気になる
我儘を言ってるのは分かってるよ
でも・・・俺は・・・」
グッと両手に拳を握り「俺は両方とも遣り遂げる」
俺の意思が伝わったかどうか・・でも父は静かに「分かった。律に任せる」と言って
少し疲れたからと背もたれを倒して、横になった
*
父は「暫くの間」と言っていた
それがどのぐらいのなのか、1カ月?半年?一年?それ以上?
でも父が出した条件は、俺にとってはここ最近の懸案事項を払拭することだった
やり遂げれば、高野さんに思いを告げることが出来る
今までモヤモヤしていた気持ちがハッキリと伝えることができる
俺は今後の段取りを含め、明日父に相談しようと決め
久しぶりの自室のベットで眠りについた
作品名:世界一初恋 高x律 葛藤 作家名:jyoshico