世界一初恋 高x律 葛藤
【SIDE 高野 Fパート 1/4】 ---------------------------
最初の内はメールや電話で連絡を取り合っていた
でも日本とイギリスとでは時差が9時間ある
日本で夜8時でも、イギリスでは昼前の11時
丁度、仕事が忙しくなる時間だ
だから、アイツの負担にならないように極力電話を避けて、メールでのやり取りがもっぱら多かった
一年経った頃、逢いたくて、声を聞きたくて、触りたくて、イライラしてた
逢いに行けばいいのだけど、アイツ頑張ってるのに、俺が我儘を言うと困るだろ?
だから理性を総動員して我慢した
二年経った頃には、少し落ち着いて、ふと見上げた月が満月だと”アイツも見てるかな”なんて思うと心が温かかった
三年経った頃には、いつ戻ってくるのか、戻って来れるのか不安でたまらなかった
早く戻ってこい・・・律・・・
*
1202号室は、ずっと空き部屋だった
だから、アイツが戻ってきたら、また隣同士で住めるかもしれないと考えていた
でも、流石に三年経った頃、慌ただしく引越し業者が出入りしてるのを見て、少しショックだった
あー誰か引越ししてきたんだな。
職業柄、時間が不規則だから隣人への挨拶も出来なかった
1202号室の表札には名前は書いてない
時折夜中パタパタと歩く音?がする
小野寺とは二週間前ぐらいからパタリと音信不通になっていた
携帯に掛けても繋がらず、メールの返信もない
時折音信不通になるヤツだけど、今までなら”忙しいくなったのか”程度に考えていたが
だけど今回は三年目ということもあり、どうしようもない不安が襲ってきていた
*
チロチーン♪
携帯を開きメールを確認すると、思い人からのメールだった
『ごめんなさい。携帯が水没したので買い換えました。
残処理をしていたので連絡が遅くなりました。』
簡素な内容だったが、それだけでも俺は嬉しくて、安心できて。
『りょーかい』
逢いたいとか、寂しいとか、そんなことを書けば小野寺も辛くなると思い
俺は一言だけしか打たず返信した
うん。今日は気分がいい。少し散歩でもするか。
玄関を出て、目的も無く、ブラブラと住宅街を歩く
少し歩くと、図書館が見えてきた
別に読みたい本がある訳でもないが、なんだか吸い込まれるように図書館に入った
独特の本の香りが鼻につく。
図書館に行くと、高校生だった頃の記憶を思い出す。
書架をゆっくり廻っていると、タイムスリップしたような光景を目にした
サラサラと揺れる栗色の髪、色白で華奢な体つきは変わっていない
横顔を確認すれば、愛しい人
見つけた。俺だけの宝物
にやける口元を方手で押さえながら、逸る心を押さえ、背後に立つ
届かない本を取ろうとしているので、代わりに取る
「はい」
「ありがとうございます」
振り返ったアイツは一瞬驚いたみたいだが、直ぐに目を細め嬉しそうに破顔し、優しい表情で俺を見る
「おかえり」
無事触れた指先から伝わる、よく知っている感触
サラサラ流れる髪を軽く指で摘まみながら、自然と緩む口元を抑えきれない
「ただいま・・です」
抱きしめた感覚が、声が、鼓動が、すべてが俺を温かく包み込む
狂おしいほどの想いばかりが胸にうずいて仕方ない
「遅いですよ。待ちくたびれました」
「いつ帰って来たの?」
「んー二週間前ぐらい」
「何で連絡しなかったの?」
「俺、”見つけてください”って言ったでしょ?」
「うん。見つけた」
ギューギューと互いを抱きしめて、そのまま俺の部屋へ向かった
作品名:世界一初恋 高x律 葛藤 作家名:jyoshico