世界一初恋 高x律 葛藤
【SIDE 律 Aパート 6/6】 ---------------------------
食事を(無理やり)ご馳走して頂いたので、お礼に食器を洗う
これもいつものこと
そんなやり取りが自然と馴染んでいて、少しだけ俺の心を温かくする
食後のコーヒーを高野さんが淹れてくれた
俺としては、さっさと部屋に戻りたかったのだが・・・
折角なのでソファーに腰掛け頂くことにした
「お前、いつからブラック飲めるようになったの?
10年前はミルク入れないと飲めなかったよな?」
よくもまぁー覚えていることで。
確かに、高校生の頃はミルクと砂糖を入れないと飲めなかった
でも先輩が美味しそうに飲んでたから、自分も同じように飲みたいと思って・・・・
って・・あれ?俺って先輩を意識してブラック飲めるようになったんだっけ?
「いつから?」
「・・覚えていませんよ」
「俺が飲んでたから?」
「自意識過剰ですよ」
「やっぱ可愛くねぇーな」
「・・・・・」
はい。そうです。なんて言えるハズもない
何だかんだで、俺は10年前からずっと無意識に先輩の面影を追ってたんだろう
あんなに忘れようとしていたのに
ずっと黙っていると、高野さんが俺を抱きしめる
「なっ!何してるんですか!離してください!!」
「やだ」
「や・・”やだ”ってあんたは子供ですか!」
「うん」
「”うん” じゃないでしょ!」
「もう少しこのまま」
この人が幼稚化する時は大抵昔の俺が原因だったりする訳で・・・
仕方ないのでハァーと業とらしい溜め息を付き、「少しだけですよ」と言うと、ポツリポツリと話はじめた
「前にも言ったけど、俺、お前の10年間を全部知りたい」
「・・・・・」
「俺と・・・離れた後の10年間、お前が何を考え、思い、行動していたか全部知りたい」
「そ・・そんなこといちいち覚えていません」
「じゃぁさ。再会するまでの間で俺のこと少しは思い出したことある?」
「・・・・・」
「無いの?」
忘れようと必死にあがいて、顔すらも忘れて
でも夢の中では”嵯峨先輩”はいつも優しくて
目が覚めると、これは悪夢だ!と言い聞かせ、胸が苦しくなった
どんなに記憶を消そうとしても、初恋相手は中々しぶとく俺の心の中に居座っていた
だから・・・結局全部を忘れることも出来ず、今高野さんの腕の中にいるわけで・・・・
「俺はいつもお前の事を考えてた」
ギュッと高野さんの抱きしめる腕が強くなり、「・・痛いです」と声を上げても緩めてくれない
高野さんの肩が少し震えているような気もする
「荒れて時期もあるけど、お前以外を本気で好きになることが出来なかった」
「・・相手の方に失礼ですね」
「お前だけ。律だけが俺の心を支配できる」
「・・それはどうも」
「身体も心も全部、俺という全てをお前にやる」
だから・・・と俺を少し離し互いを見つめ合いながら
「お前の全部、俺にちょーだい」
その目は真剣で、俺は恥ずかしくて、多分全身真っ赤だと思う
見つめられた漆黒の目を、俺は逸らすことができない
何も言わない俺を、高野さんが静かに押し倒し、唇を塞ぐ
最初は優しく啄ばむように、そして次第に強く全てを食いつくすように
あぁ・・俺って情けないな
抵抗できない自分を情けないと思っているのではなく、この人を受け入れることに躊躇している
自分が情けないと思う
色々な柵(しがらみ)が邪魔をして、自分の気持ちすらも蓋をして・・・
でもそんな蓋すら、この人は壊して俺の中に浸食してくる
強引で、傲慢で、横暴で、俺様で・・・
それでも俺を大事に、宝物のように扱い、優しく包み込む
心地いいと感じてしまっている俺は、もう末期症状だと思う
高野さんに抱かれる度に思い知らされる
だから・・・だからこそ、今回のチャンスは絶対にやり遂げなくてはいけない
俺を囲う全ての柵を払拭することができる
そうすれば、素直に思いを告げることが出来る
もう一度やり直して、ずっと一緒に・・この人の傍にいたい
もう少し待ってて。高野さん。
全部終わったら、ちゃんと伝えますから。
一旦離れた唇に、今度は自分から唇を重ね、思いを込める
高野さんは少し吃驚してたけど、すごく優しい表情で俺を包みこんでくれた
伝わったかな?そうだといいな・・
作品名:世界一初恋 高x律 葛藤 作家名:jyoshico