世界一初恋 高x律 葛藤
【SIDE 律 Bパート 1/6】 ------------------------
俺の日常は日々追われることになった
日中はエメ編で編集者としての激務に追われ
夜は投稿小説に目を通し、平均睡眠時間は2、3時間程度
丁度周期と重なっている時は負担を掛けないようにと、調整してくれるので助かる
安岡さんが作り置きしていった食事を温め、体力的には問題ない
睡眠なんて数時間で足りるものなんだなぁーと感心してしまう
月1回の役員会議も、事前に決裁資料が手に入る為、左程苦労はしない
俺が午後出勤の時を見計らって、午前中に会議を行う
殆どが父が承認している内容なので、俺は代理でOKを言い渡すだけ
なんだかんだで慌ただしく、それでも充実している日々が1カ月過ぎようとしていた
父との『約束』が希望となって、今の俺を支えている
「律様、お疲れ様でした。
本日の会議も滞りなく終了致しました」
「はい。俺も安心しました」
「それでは、ご自宅までお送り致します」
「お願いします」
今日は初めての役員会議ということもあり、実家からの呼び出しという名目で有給を使用している
別に有給をどう使用するか、いちいち説明なんてしなくてもいいのだが・・・・
鬼編集長が理由を言え!とプレッシャーをかけてくるので、敢え無く降参
実際、実家へ戻って、父に報告しているので、あながち全部が嘘ではない
時計を確認すると、18時を少し回った頃だった
渋滞してなければ、30分程度で着くだろう
今日はゆっくり出来るかな?と思いながら、車の揺れに身を任せ、後部座席でゆっくりと目を瞑った
「律様。到着致しました」
安岡さんに声を掛けられ、気付くとマンションの前だった
あー俺、寝てたんだ・・・・
「すみません。寝ちゃいました」
「いいえ。律様は少し無理をされている様です。
もう少し、周りに甘えてもよろしいかと思いますが?」
「え?俺無理してませんよ。むしろ結構充実してますけど?」
「そうですか。差し出がましいことをいい、申し訳ございませんでした」
「ありがとう。心配ばかりかけて、俺って成長してないよね。」
「昔から変わらないところもありますが、少しずつ成長されていると思います。
ですから、あまり一人で抱え込まないでください」
「うん。ありがとう」
「律様。失礼を承知の上で、お尋ねしたいことがあります」
「ん?」
「今、律様の心の中にいるのはどなたですか?」
「え?何・・・言ってるの?」
「”嵯峨先輩”ですか?それとも”高野さん”ですか?」
安岡さんの口から出た名前にグッと喉を鳴らしてしまった
なんで”高野さん”を知ってるの?
「不躾で申し訳ございません。実は律様の周りにいらっしゃる方を身辺調査致しました」
「誰の命令?父さん?」
少し震えた声で俺が聞くと「いいえ。私の判断です」と静かに答えが返ってきた
「私は律様が苦しまれた過去を覚えております。
正直なところ、接触してほしくはありません。
今度、律様が壊れてしまったら、旦那様も奥様も悲しまれます」
「俺は・・・もう壊れたりしないよ。大丈夫。子供のころの俺じゃない」
そう、高校生だったあの頃と今は違う
「私は、いつでも律様の味方です。
例え、旦那様から言いつけられても、律様の不利になるようなことはしたくありません」
「・・・・・」
「ですから、先程の質問に正直にお答えください」
「・・・・嵯峨先輩も好きだったけど、俺は今の高野さんが好き。」
「そうですか。正直にお話し頂き、ありがとうございます」
運転席を降りた安岡さんは、後部座席のドアを開き「おやすみなさいませ」と
言うと、俺は「おやすみ」と答え、エントランスへ向かった
*
別に安岡さんに高野さんのことを知られても平気だった
10年前に”嵯峨先輩”と別れた時、親身に相談に乗ってくれたのは安岡さんだった
だから、同性同士の恋愛ってことにも、それほど抵抗なく受け入れてくれたことに、
少し気が楽になったのも事実
そんな安岡さんからの質問は、俺の頭をグルグルと掻きまわす
俺が今一緒に居たいと思うのは”嵯峨先輩”ではなく”高野さん”
でも、”嵯峨先輩”を好きだった気持ちが嘘ではないし、結局のところ同一人物だし
「どっち?」と聞かれて咄嗟に答えたけど、自分の答えに不安が付きまとう
俺は”嵯峨先輩”が高野さんだったから、また好きになったのだろうか?
それは今の高野さんを好きになったのではなく、”嵯峨先輩”の面影を持つ高野さんを見ているだけで
本当の気持ちではないのだろうか?
急に襲ってきた不安は俺の胸をきつく押し付ける
とてつもない不安。心臓がドキドキと高鳴り息をすることさえも苦しい
自分が分からない。
暗いベットの中でそっと手を伸ばしても空振りするだけ
俺ってエメ編に入ってから乙女思考になりっぱなしだな
伸ばした手の平をグッと力強く握り、そっと腕を降ろす
作品名:世界一初恋 高x律 葛藤 作家名:jyoshico