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世界一初恋 高x律 最初で最後の恋

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毎度の事なら、作家のスランプやらアシスタントの病欠やらで、
校了直前になると、原稿が揃わず印刷所との攻防戦が開始される。

無理やりにでも印刷所を脅して時間を稼ぎ、その間に作家から原稿をもぎ取る

普段は印刷所との交渉は部下の美濃が担当しているが、
今回は珍しく美濃の担当作家が病気に掛ったこともあり、
俺が代わりに交渉人として出向くことになった

泣きついてくる担当者に容赦なく畳みかける
印刷所には同業者も出入りしているが、ここまで喧嘩腰に時間を稼いでいるのは
俺達ぐらいだろう

なんとか入稿が終わり、俺はひと息入れる為に休憩室へ向かう
部屋の中には同業編集者達が数人長椅子にもたれ掛り、グッタリとしている

見慣れた光景なので、意識せず自販機でコーヒーを購入していると
背後から「今回は流石にヤバかったなぁー」と会話が聞こえた

「宇佐見先生が逃亡を企てた時はどうしようかと思いましたよ・・・
 突然エジプトに行くって言い出したんですよ!信じられませんよ!」

聞き覚えのある声に、思わず振り返る
そこには、テーブルに突っ伏して同僚に文句を言ってる”彼”が座っていた

「まぁーそう言うなって小野寺。
 お前しかあの大先生を抑えることは出来ないんだからさぁー」

「ハァー久しぶりに疲れました・・・下田さん、今日直帰してもいいですか?」

「おう!俺も直帰だし、飯でも食いに行くか!」

「・・・出来れば胃に優しい食べ物をチョイスしてください・・・」

二人は立ちあがり、俺の横を通り過ぎ部屋を出て行った

今日わかったこと
--- 仕事は同業編集者で文芸担当だということ
--- 名前は小野寺だということ

散々な一日だったが、最後の最後で良いことがあった
俺は緩む口元を手で覆いながら、後を追うように部屋を出た



編集業をしていると、普通のサラリーマンと違い不規則な生活となる
昼過ぎに出社し、終電で帰る
場合によっては、帰宅すら面倒になり仮眠室で過ごすこともある

だから、隣人のことなぞ気にもしていなかった