世界一初恋 高x律 最初で最後の恋
偶々その日は午前中に部決会議の予定があったので
いつもより数時間早めに家を出た
丁度通勤ラッシュの時間で、駅前付近には学生やサラリーマン、OLがバスから降りて
改札へ向かっている
俺はあくびをしながら、混雑している改札口へ向かっていると
彼--小野寺が少し前を歩いていた
小走りに近づき、驚かせないように肩を叩き、振り向かせる
小野寺は一瞬吃驚した表情になったが、すぐに「おはようございます」と笑顔で挨拶をしてきた。
「おはようございます。いつもこの時間なんですか?」と長く一緒にいられるよう話しを続ける。
「ええ。大体この時間ですね」
「編集業なのに、出勤が早いんですね?」
え?と小野寺はポカンとした表情で俺を見上げる
「あーすみません。この間、印刷所で見かけたもので」
校了日に見かけたことを話すと「あーそうでしたか」と二コリと微笑んだ
一瞬だが、その表情が昔見た”誰か”の記憶とダブって見えた・・・
脳をフル稼働しても、直ぐには思い出せそうもない
その後、満員電車だった為、
小野寺とは逸れてしまい、どの駅で下車したか分からなかった
*
翌日から俺の出勤時間は変わった
どんなに遅く帰っても、朝は小野寺と同じタイミングの電車に乗れるよう
最寄駅前で来るのを待ち、偶然を装い近づいた
その結果、また新たな事実が判明した
--- 小野寺の下の名前は『律』だということ
--- 勤務先は小野寺出版であること
--- 自宅マンションは駅から10分程度の場所であること
そして・・・現在”彼女はいない”という重大な事実も入手できた
ファーストネームを聞いた時、ドキッとした。
何故ならば、俺の初恋相手も『律』だったからだ
俺も高校三年のとき、親の離婚を経験し、性が変わっている
念の為、小野寺にさり気無く聞いたが、離婚した事実はなかった
つまり”偶然”、ファーストネームが一緒だったと結論付けた
*
俺の日々は充実していた
数十分程度、一緒に電車に乗っているだけだが、逢えた日はすこぶる機嫌が良かった
偶に逢えない時もあるが、半年以上前に比べれば段違だ
普段、なるべく自炊をしているが、疲れが溜まると気力がなくなる
深夜、帰宅途中にあるコンビニで冷めた弁当を購入し、会計していると、
小野寺が店内に入ってきた
「小野寺さん、こんばんわ」
一声掛けると、俺に気付き同じように「こんばんわ」と返事を返した
俺は会計後、店内の雑誌コーナで物色しているフリをしながら
小野寺が会計を終わるのを待つ
あわよくば、自宅がどこにあるのか特定できるかもしれないと期待に胸が膨らむ
--- 俺、立派なストーカーだよな・・・
頭をガシガシと掻いて、レジを伺うと丁度会計を済ました小野寺と目が合った
「途中までご一緒してもいいですか?」
ヘンに思われないように、紳士的振舞いで近づき、了承を得る
帰路途中の会話は、最近読んだ本のタイトルや感想などを話す
--- なんか、懐かしいな
高校時代に戻った気分だった
昔もアイツと一緒に帰る時は、本の話題ばかりだった
そんなことを考えながら住宅街の坂道を上がると、俺の住んでるマンションの近くに着いた
--- 小野寺の家はこの先なのだろうか?
近所にはマンションが多数建っている為、不思議には思わなかった
「俺の住んでるマンション、ここなんで」
そう言うと、「え?!」と驚いたあと、
「いや。実は俺もこのマンションに住んでるんですよ」
世間は狭いですねぇーと小野寺はエントランスへ向かう
「何階に住んでるの?」
当然知りたい情報だったので、躊躇なく聞くと
「12階ですよ」
「俺もなんだけど」
「え?そうなんですか?」
「俺、1201号室。小野寺さんは?」
「・・・・・1202号室デス・・・」
小声だったが、俺はシッカリと聞いた
そう、小野寺は隣人だったのだ
こんなに近くに居たのに気付かないなんて・・・灯台もと暗しとはよく言ったものだ
”運命”なんて昔の俺は信じなかったが、これは”運命”に違いないと今の俺は思う
だってそうだろ?気になる人が俺の隣人だったなんて、そんな偶然ないだろう?
緩くなった口元を手で隠しながら、「おやすみなさい」と声を掛け自室の扉を開けた
作品名:世界一初恋 高x律 最初で最後の恋 作家名:jyoshico