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世界一初恋 高x律 記憶喪失

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--- 俺は”誰”を待ってるんだ?

自分から記憶を辿ることなど今までしなかった
興味も無かったし、別段思い出した記憶が必ずとも”美しい想いで”とは限らない

でも今は、何か引っかかる
小野寺を「好きだ」と思うのと同時に呼び起される記憶
ハッキリとしてないが、夢で見た内容は間違いなく実際の記憶だ

そして図書室で”誰か”を待つ俺

昨日見た夢では、引っ越す前の家に”誰か”を自室へ連れ込んでいた
友達なのか?彼女なのか?
姿形はぼやけていて全く分からない
時折聞こえる声は少し甲高く、触れる手首は細かった為、女を家に上がらせたと考えた

夢の中の俺は優しい表情で微笑し、愛おしく髪を撫で相手と向き合っていた
その髪の感触が、小野寺の髪と重なった



「好きだ」という思いは日々募るばかりだ
自然と小野寺を視線で追う、仕事中でも小野寺の事で頭がいっぱいになる
目を閉じ、耳を塞いでも小野寺の姿が浮かび、声が聞こえてくる

恋煩い末期症状・・・

俺は『初恋』をした



俺と木佐の担当作家の重版が決まり、祝いと称して会社近くにある居酒屋「久間や」へと向かった
他愛も無い話しをしながら酒を進めている、木佐が話題を振った

「ねぇーねぇー皆の初恋っていつ?」
今度漫画のネタに使うから教えてよぉーと身体をクネクネさせて聞いてくる

羽鳥、美濃は言葉を濁し、曖昧に答える
「木佐は初恋はいつなんだ?」

同じく曖昧に答えた俺は、話題を振った本人に質問を投げ返す
すると、木佐はボッと赤くなり「俺はこの最近。その相手と付き合ってるしね」とラブラブオーラ全開で答える

「「「へー」」」と相槌を打ち、一同小野寺を見る
そう、小野寺はこの話題に参戦していないのだ

「お前はどうなの?」
さり気無く聞くと「俺ですかぁー?」と少し酔いの廻った口調で話し始めた

「俺は、中学の時ですね。三年間片思いしてて、高校一年の時に告白して少しだけ付き合ってました」
でも別れちゃいましたけどね!と苦笑いで話す

「三年も片思いってすごいね・・・」
美濃が食い付くと「28年間ずっと片思い奴を俺は知ってるぞ」と羽鳥も参戦する

「告白する気は無かったんです」
そう言うと、少し辛そうな表情で話しを続ける

「偶々手が触れて、つい”先輩”の名前を言っちゃって・・・
 ”名前。何でしってるの?”と聞かれた時、思わず告白しちゃいました」

今思えば、言わなきゃ良かったですよ・・・と困った表情で話す

「それでも好きだったんだろ?その”先輩”のこと」
なんとなく、小野寺の口からもう一度”先輩”という言葉が聞きたて尋ねてみた

「ええ。若気の至りだとは思いますが、一応本気でしたよ。”嵯峨先輩”のこと」

『先輩・・・先輩・・・嵯峨先輩』

頭の中で声が反響する

「・・・どうして・・別れたんだ?」
何故別れたのか。理由を知りたかった

「俺とのことは遊びだったみたいで、もてあそばれて捨てられました」
「うわー酷いねぇー」
木佐がつかさず突っ込みを入れると、小野寺は「もうその人の顔すら、忘れましたから」と微笑する

俺が・・・小野寺をもてあそんで捨てた?
そんなハズはない・・・

結局、ラストオーダーになるまで呑んだ俺達は、足元が覚束ない状態でタクシーに乗り込み
自宅マンションへと帰った