世界一初恋 高x律 記憶喪失
--- しまった!
そう思った時には遅く、小野寺は俺の前から走って逃げた
仕事帰り、小野寺と一緒に本屋に立ち寄っていた
今日は宇佐見秋彦先生の新刊発売日だった
何気なく手に取り、レジへと向かおうとした時、声をかけられた
「あれ?嵯峨くん?」
「振り返った先には、見知らぬ女性」
俺は誰だか分からず首を傾げていると、高校の同級生だと話す
あー俺が記憶を無くす前の知り合いか
「さ・・・が・・・?」
小さい声での呟きが聞こえた時、俺は「ハッ!」と小野寺を見る
すると、青白い顔で俺を睨みつけ、逃走した
すぐに後を追ったが、見失ってしまった
例え俺の前から逃げても、自宅は隣だし、会社も一緒だ
帰りに寄って、話しをすれば大丈夫だと簡単に考えていた
*
小野寺の部屋のチャイムを鳴らしても出てこない
携帯を鳴らしても繋がらない
ベランダ腰に隣を伺っても、部屋は暗く物音もしない
タバコに火をつけ、深く吸って吐く
「どこ行ったんだ?」
隣人不在のまま、夜は明けた
翌日、出勤すると羽鳥が「小野寺が体調不良で今日休むと連絡がありました」と伝える
「あー。そう」
素っ気なく返事を返し、席に座る
書類に目を通す振りをして、一日をやり過ごす
俺は、全く仕事に身が入らなかった
そそくさと定時に上がり、小野寺の部屋へ行く
部屋に戻った形跡がない・・・・
実は今朝、小野寺の家の扉に小さな紙を挟んでおいた
扉を開ければ剥がれるようになっていた
それが、まだ扉に張り付いている
「なんだよ・・一体・・・」
バンッと廊下の壁に力いっぱい拳を叩き付け、ズルズルとしゃがみ込んだ
作品名:世界一初恋 高x律 記憶喪失 作家名:jyoshico