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そら礫

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「そら礫ですか」
うん?とがくぽが耳慣れぬ言葉にキヨテルの顔を見た。

「天狗礫とも言いますが。天狗礫と言った場合は山中での怪を指す場合が多いですから、この場合やはりそら礫でしょう」
「そら礫…してそれは?」
「空礫。何処よりか礫が打ち込まれるという怪です。打たれはすれども打つ者の姿は決して見えない。その礫は当たっても何故か全く怪我はしないとも、当たると病気になるともいわれます。また、石が当たる音だけがして実際には何も見当たらない、というのもあるそうです」
「なるほど、まさに近江屋で起こっているのはそれであるな。他でも似た出来事があるのか」
がくぽは感心したように頷いた。

「珍しくはありますが、例はなかなか多いようです。江戸麹町の卵を売る商家に連日石が投げ込まれた話は、この辺りにまで聞こえた騒ぎと記憶していますよ」
「ふむ、拙者は寡聞にして知らぬが…卵…それは大変だな」
実際卵に被害があったかどうかは知らないが、思わず石が次々卵を割る様を想像してしまう。

「では此度の件、妖物のなす怪異なのであろうか?勇馬にも話したところ、丁稚の小僧か女中の仕業だろうと言うのだが」
「そのような例もありますねえ。実は召し使っている者が犯人であったという話はいくつかあります」
「そうなのか。…しかし、やはり拙者には人間に可能な所業とは思えぬのう。量は多くないとはいえ、毎日誰にも姿を見られずに礫を投げ込むのは」
「確かに人には難しいかもしれませんねえ……いや、興味深いお話を聞かせて頂いて有難う御座います」
キヨテルは嬉しそうに礼を述べた。
この青年は日頃から殊(こと)不思議な話や不可解な話を好んでいるのだ。

「身近でこんな出来事があるとは。是非実際にこの目で見てみたいです。今度足を運んでみましょうかねえ」
「…拙者はあまり奨めぬぞ…尾形殿、笑ってはいたが野次馬の連中に大分きておったからな…」
キヨテルはがくぽの忠告はあまり気にして聞いていないようであったが、唐突に話題を変えた。
「興味深いと言えばもう一つ。この間勇馬さんが仰っていたのですけど、がくぽさん、狐をお飼いになっているとか?」

「ん、カイトの事か。まあ飼っているわけではないが。家に来てからはほとんど人の姿でいるしな」
「ほう!では本当に勇馬さんが言っていた通り人に化ける狐なのですか」
キヨテルは身を乗り出した。
「はは…あれは馬鹿にしておったろう。信じておらぬからな」
生真面目な友人は目の前の青年と違いこの手の話を好まない。

「がくぽさんは実際変化するのはご覧になったのですか」
「ああ、何度か見たぞ」
「そうなのですか!狐が人に化けるとはどのように?やはり頭に髑髏か藻を乗せて?」
矢継ぎ早に質問が飛んでくる。どうもそら礫よりも興を引かれるようだ。
がくぽはそんな相手を面白そうに見返した。
「何でしょう?」
「いや、拙者は目の前で人に変わるのを見たからあの者が狐なのは分かっておるが、勇馬には随分あきれられたのだ。キヨテル殿は拙者の話を疑わぬのだな。そら礫が人の仕業でないというのも否定せぬし」
学者とは怪力乱神を語るのは避けそうなものだとは偏見か。

キヨテルは一瞬きょとんとしたが、笑って首を振る。
「いえいえ、僕も勇馬さんのように見たものしか信じませんよ。もっと言えば見たものも信じません。人には気の迷い、目の迷いがあります。だから、これはこうだと言い切るのは何事も難しいと思うのです。ですから真実狐が人に化けるか否かは重要でなく、何故化けるに至ったかに関心があります」
「拙者には良く分からぬ話だなあ」
すぐにピンと来ずにがくぽは腕を組んで考え込んだ。

「まあ、真贋がどうあれ怪異そのものを見たいのも否定しませんけれどね」
…キヨテルはあっさり付け加えた。
作品名:そら礫 作家名:あお