そら礫
「どうにか出来ぬものかな」
「はあ」
自宅に戻ったがくぽは土間の上がり口に腰かけ、夕餉の支度に青菜を刻んでいたカイトの後ろ姿に話し掛けた。
「お主、少し協力してもらえぬか」
「はあ」
さてどういう意味かとカイトは主を振り返った。
「協力とは?」
「同じ妖であろう。例えばこう、悪さをせぬよう言って聞かせるとか」
「……」
正直随分と無茶振りだ。
「それは、妖といっても様々居ります故、中には言葉の全く通じぬ者もおりますし。退治しろというなら俺は、自分で言うのも何ですが、まあ、弱いですしね」
卑下する言い方にがくぽは不満そうな顔をした。
「しかし、拙者を助けてくれたではないか」
「あれは貴方様に御恩を返す為にと必死だったのです。第一まだ妖怪の仕業と決まった訳ではありますまい。人のわざであれば俺にはどうしようもありません」
きっぱりと言い切る。
カイトの本音をいえば、関わり合いになるのは面倒だった。
こういう例で妖に障りを受ける者は、受ける側に原因があることが多い。それらは時に一方的で理不尽であったりもする訳だが、がくぽが直接害をこうむっている訳ではないのだし。
ならば知らぬ人間に自分が骨を折る必要がどこにある。関わってがくぽが厄介事に巻き込まれるのはもっといただけない。
とはいえ少し冷たい言い方になってしまったかと思っていると、
「うむ、そうか。そうだな。無理を言ってすまぬ」
案の定がくぽは下を向いてしょんぼりうなだれてしまった。
「………」
カイトは常々余計な事柄に首を突っ込みたがるのは、主にとってあまり宜しくないと思っている。
思っているのだが。
「……その、お役に立てるか分かりませんが、俺でも妖気は感じ取れますから、人の仕業か妖か、判ずるくらいは出来ましょう」
「出向いてくれるか!」
がくぽはぱっと顔を上げ、嬉しそうに言った。
「人ならば探し出して止めさせれば良いし、妖であっても拝むなり祓うなり、相応の手の打ちようもあろう」
「やってはみますがあまり期待なさらず」
「いいや、有難い。店に行っても先ず何をすれば良いかと考えておったのだ」
結局のところカイトが何もしなくても一人で調べに行くつもりだったようだ。
これでは放っておけないというものだ。
がくぽが座敷に上がってしまうと、カイトは切った青菜を煮立った鍋に入れながら、やれやれと人の良い主に苦笑いした。