そら礫
「ここから登れそうですね」
番頭に許しを得て、カイトは座敷の押し入れの中板に上がると天井板を外した。
「何事でございますか、神威様」
主人の留守中何かあってはたまらぬと、番頭はカイトの行動を不安そうに見つめている。
「どうやらこの怪の原因が分りそうだ」
おそらく先刻の屋根を走っていたもの関係しているのだろう。
天井に頭を突っ込んでいたカイトが、下のがくぽに声をかけた。
「俺が上がって様子を見てきます。がくぽ様はそこで…」
「大丈夫か?拙者も一緒に登るか」
「人では狭い場所では動けませんでしょう。何より主を屋根裏に登らせるなど出来ません」
カイトは狭い板の隙に身体をくぐらせ暗い天井にに消えた。
ぎしぎしとゆっくり天井を移動をする気配がする。すると突然ガタガタッと大きく聞こえた思うと、何かが天井裏をすごい勢いで走り始めた。
上からパラパラと埃が落ちてくる。
「か、神威様…今、天井裏で暴れているのが礫を打っていた化け物なのでしょうか…」
番頭が青い顔をしている。
がくぽもどうしたらよいのか天井を見上げて立ちつくしていると、不意に走る音の響きが変わった。
「外か」
中庭に降りると、狐が屋根の上に姿を現した。
「カイト!」
狐はがくぽを一瞥すると屋根を走り出す。追う先には脱兎のごとくに逃げる何やら小さな動物らしきもの。
すぐに両者屋根の反対側に消えて、姿が見えなくなった。
しばらくすると瓦を走り回る音が止み、小さな茶色い塊を口にくわえた狐が屋根の向こうからひょこりと顔を出した。塊をを口にくわえたまま飛び降りて、たんっと見事に着地すると同時に人の姿に変わる。
「がくぽ様、どうやらこれが怪異の元であったようですね」
カイトは「これ」と首根っこを掴んで差し出した。
差し出されたのは、茶色いなめらかな毛で覆われた細長い胴の小さな獣である。
「……」
何とも可愛らしい動物は、くりくりとした丸い目で見つめている。
「まさかこのように小さなイタチが…?」
手を伸ばして触れようとした時。
「俺はイタチじゃねえ!!」
獣が口を利いた利いた。
「む、喋るイタチとは」
がくぽは手を引っ込め、身を屈めて獣をまじまじ見つめる。
「だからイタチじゃねえって言ってんだろ!」
獣は覗き込むがくぽの鼻柱を後ろ足で思い切り蹴った。
「がくぽ様に何をする」
カイトは獣の後ろ足を一掴みにして逆さに吊り下げると、その体勢のまま回転させ始めた。
「は、離せよっ!このヤロー!!」
「こ、これ、カイト」
がくぽは鼻を押さえながら慌てて止めた。
「お主は一体何者だ。何故このような事をする」
がくぽはまた蹴られぬよう少し距離を取って、獣に問うた。
「うるせえ!てめーには関係ねえよ!……ぅわああああ!」
カイトが無言で再び獣を振り回す。
「だからカイト!このような小さき者に乱暴をするでない」
「いえ、口の利き方が生意気でしたのでつい…」
「いーから逆さに吊るのはやめろよぉ!」