If ~組織の少年~
リンディは意味ありげな顔をすると「なら、本人に聞いてみれば」と後を見る。
そこにはこっちを見ている三人。
「あ、確かお前は」
アレルはフェイトのもとへと来る。
一方、フェイトはどうしたらいいのかとオロオロする。
「いや〜、君凄いな。女の子に負けたのは初めてだ。あとの二人も凄かったけど、君も凄かった」
「いや、べつに、あの……」
一気に喋り出すアレルについていけないフェイト。
「おい、アレル・ミルトン。君は犯罪者ということを自覚しろ。勝手にウロウロするな」
クロノがアレルの襟を掴み、引き摺って歩く。
「苦しい。苦しいです。クロノさん」
首を押さえて呻くアレルをよそにクロノはどんどんと歩いて行く。
フェイトはそんな姿を唖然と見つめる。
「あの子、犯罪者とは思えないわ」
「え?」
「あの子はフェイトと変わらないくらいのちょっとお調子者の男の子。そんな気がするの」
リンディの言葉にフェイトは軽く頷く。
翌日、フェイトとなのはが一緒に教室に入るとクラスメイトたちが一か所に集まって騒いでいた。
「え、じゃあ、一昨日途中で帰っちゃったのは家のガキが空いてなくて引っ越し業者の人が入れなかったから帰ったの?」
「ああ、いきなり連絡受けてビビったよ。日本の引っ越し屋は優秀なんだな」
「で、昨日はなんで休んだんだ?」
「昨日は……」
言葉につまるアレル。言い訳を考えているのだろう。
「そ、そう、家がガス爆発したんだ」
フェイトは何もない所で躓く。
(な、何言っているの、この人!!)
「はぁ!! ガス爆発!! そんなわけないだろ」
「いや、本当だって軽くキッチン黒こげになったんだ。それの後始末が大変で」
アレルは流石にガス爆発は不味かったと思ったのか、頭から汗をかいている。そして出来るだけそんなに大袈裟な爆発じゃないことを必死で説明している。
フェイトはなんとか誤魔化せた様子のアレルを見ると、自分の席に座った。すると、苦笑いしながらなのはが近づいてくる。
「す、すごい言い訳だね」
「う、うん。そういえば、なのはも連絡受けたの?」
「昨日、クロノ君から。なんかすごいことになっちゃったね」
「でも、私はこれでよかったと思う」
フェイトの意外な言葉になのはは意外そうな顔をする。
「どうして?」
「少しアレルのこと知りたいと思ってたから」
そう真顔で言うフェイトに嘘偽りはなさそうだ。彼女は本当にアレル・ミルトンに興味を抱いている。
友達としてなのははそんな彼女のことが少し心配だった。
授業が始まるとアレルは転校初日と同じように寝始めた。すると、彼の寝息はやがてその大きさを増し、いびきとなって教室中に響きわたる。
「ミルトン」
教師に呼ばれるがアレルは起きない。教師はアレルの席まで近づき、その頭を丸めた教科書で叩く。
「ふがぁ!!」
腑抜けた声がクラスメイトたちの笑いを誘う。
アレルは叩かれた頭を擦りながら起きる。
「まったく。ミルトン、お前は転校してそうそう休んで今度は授業中に居眠りか」
「すいません。昨日の後片付けが忙しくて」
「言い訳はいいからさっさとノートに写せ」
「はい」
アレルはペンを持ってノートに向かう。
四時間目の授業が終わる。結局、アレルは全ての授業で居眠りをして全ての授業で怒られた。そのことで職員室に呼び出されている。
「フェイトちゃん、屋上行こう。みんな待っているよ」
お弁当を持ったなのはがフェイトに声をかけるが、彼女は何か真剣な顔をしている。
「どうしたの?」
「なのは、アレルのこと誘っちゃダメかな?」
「誘うって、もしかして、お昼ごはんに」
「うん。ダメ?」
そう可愛らしく首を傾げるフェイト。
いくら同じ女とはいえ、そんな顔をされたら断りずらい。
なのはは困った顔をする。
「別にいいじゃないかな? 悪いじゃなさそうだしって悪い人なんだっけ」
「ありがとう、なのは。私、誘ってくるから先に行ってて」
フェイトは弁当箱を持ってアレルを探しに行く。先生に呼び出しされたなら職員室にいるはずだと、職員室前で待つ。五分もしないうちにアレルは職員室から出てくる。
しかし、いざ誘うとなると緊張する。
アレルもフェイトに気づくと何か用があるのだろうか、と言葉を待つ。
「あ、あの」
「なんだ?」
フェイトの顔がだんだん赤くなっていく。まるで、告白するために男の子を呼び出した女の子のようだ。
「え、えっと、アレルはお昼ごはん食べた?」
「いや、すぐに呼ばれたから食べてない」
胸が高鳴る。これで誘うしかなくなった。屋上ではなのはたちがフェイトとアレルを待っている。早くアレルを誘って屋上に行かないといけない。
「あ、あの!!」
自然と声に力がこもる。
「お、おう」
「お、お昼一緒に食べない?」
少しの間。
「はい?」
アレルは思わず聞き返した。
只今、屋上には、重苦しい空気が流れていた。
その原因が、自分にあることを流石のシルアも感じることが出来た。
フェイトに誘われたあと、シルアは断る理由が特に見当たらなかったので了解すると、コンビニ弁当を持ってフェイトと屋上に来た。そこにいたのはあの管理局員の女の子二人とその友達らしき二人がいた。
シルアが来ることを知らせてたのか、特に驚くような表情は見せなかった。しかし、管理局員の二人は、シルアを警戒しているようで、黙ってこちらを見ている。そんな二人を見て、他の友達も口を開こうとはしない。
フェイトが切り出して、お互いに自己紹介を済ませると、話す話題もなく無言の時間が流れる。みんながみんな黙々と昼食を食べている。
このままじゃ不味い。
シルアは何か話題を必死で考える。
「ミルトンってフェイトのことどう思ってる?」
飲もうとしていたペットボトルのお茶を噴き出した。慌ててティッシュで制服を拭く。
質問したのは、フェイトの友達のアリサ。話題を振ってくれたことは、ありがたいがせめて違う話題にしてほしかった。
「えっと、どうしてそんなことを訊くの?」
「ただの好奇心よ。あと女の勘が訊けって言ってるの」
どんな理由だ。
普通に考えれば、悪く思っているに決まってる。犯罪者と管理局員が良く思っているわけがない。
でも、シルア自身は、それほど悪く思ってないと感じた。確かに出来れば捕まえないでほしかったとは思うが、憎いとは思わない。悪いことをしていたのは、自分だ。悪いのは、自分。彼女は、仕事を全うしただけ。
そうなると自分は、彼女のことをどう思っているのだろう。悪くないなら良いのか? 自分は、彼女を良い人と思っているのか? でも、どう思えば良く思ってると言えるのだろう、良い人と思っていると言えるのだろう。楽しいと思えばいいのか? 嬉しいと思えばいいのか? 好きだと思えばいいのか?
どこからが良くて、どこからが悪いのか。シルアはそれが判断できない。
今まで出会った人たちは良かったのか、悪かったのか。今思えば、まったく分からない。人に好き嫌いがない、もしくは人に関心がないのか。
シルアにはよく分からない。
作品名:If ~組織の少年~ 作家名:森沢みなぎ