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森沢みなぎ
森沢みなぎ
novelistID. 41186
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If ~組織の少年~

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 部屋のドアがノックされた。しかし、返事をする前にドアは開かれる。まったくマナーがなってない、と悪態をついて、その客人を招き入れる。数人の管理局員。今まで見てきた奴とは明らかに違う。一人一人が猛者ばかりだ。それに制服も違うから、戦闘を専門とした部隊だろう。
 管理局員はシルアとヨルに手錠をする。前フェイトにやられた後に付けられた魔力が体内で結合するのを邪魔する枷だ。
 そのまま転移魔法で時空航行艦へとくると、そのまま例の独房へと叩きこまれた。
「ずいぶんなお持て成しだな」
「私たちはVIP様だからでしょ」
 ヨルから納得の回答が返ってくる。
 それにしても結局フェイトはシルアの前には表れなかった。昨日のうちに会えると思っていたが、こっちは身動きが取れないから待つだけしかできなかった。
 いや、よく考えれば、フェイトがシルアに会いにくる理由もない。それなのになぜそんなことを考えているのだ。自分何を期待しているのだ。
 それは無意識。シルアは望んでいるのだ。フェイトに会うことを、話せることを。別れの挨拶がビンタじゃ、格好がつかない。ちゃんと別れを言いたい。
 この短い日常の中でシルアに普通の学生としての振る舞いを教えてくれたのは間違いなくフェイトなのだ。感謝してもしたりない。お礼をしてもしたりない。
 この何とも言えない感情はなんだ。この体が暖かくなるような気持ちはなんなのだろう。
 ――嗚呼、これが人を好きになることなのか……
 こんな所で、今更、そんなことに気付いた。もう会うこともないのに、そんなことに気付けても遅い。
「ホント、テスタロッサには感謝してもしきれないな」
 最後の最後に人としての感情をくれたのだから。
 視界が暈ける。手の甲に水が滴る。
 久しぶりに泣いた。もう、枯れたと思っていたが、どうやら違ったらしい。
「シルア、貴方泣いてるの?」
 ヨルが心配して覗き込んでくる。
「ああ、なんかスゲー気分が良いし、悪いんだ」
 ヨルの顔が唖然とする。何を言ってるんだコイツは、と顔に書いてある。
 それもそうだろ。シルアに自身も自分で何を言っているのか分からない。こんな気持ちは初めてだからうまく言葉に表せない。
「ヨル、これからもよろしく頼む」
 ヨルの顔がさらに唖然となった。コイツついに可笑しくなったか、と顔に書いてある。
「まったくもって意味が分からないわ。シルアは今の状況がよくわかっていないようね」
 そういうとヨルは笑った。これまで見たこともない満面の笑みで。
「でも、貴方からそんな前向きな発言を聞いたのは初めてだわ」
「え、嘘」
「本当よ。特にこの頃のシルアはそれは酷かったもの。まるで自分が生きてることを憎んでるみたいな感じで」
 ドンピシャだ。
 時々ヨルには人の心を読める希少能力があるんじゃないかと思えてくる。
「でも、もう大丈夫そうね」
「ああ、少し気持ちがすっきりした」
 生まれて初めて生きる目標ができたのだ。
 フェイト・テスタロッサに感謝をする、という小さな目標が。


 アレルの護送から数日が経った。すでに裁判の日取りも決まり、弁護にはクロノが自ら立候補したらしい。
 そしてフェイトは未だアレルには一度も会えていない。護送中も結局、チラッと姿を確認できた程度だった。あと、会える機会は裁判のときだけだろう。それも傍聴席と被告人席という最悪の機会だ。
 だけど形振り構っていられない。話せないまでも、お互いの目が合うくらいは、と。
 そんなことを考えていると不意に携帯端末が鳴る。相手は兄であるクロノだ。
「どうしたの、クロノ」
『フェイト!! 今何処だ』
 その声は何処か慌てている。こんあクロノの声を聞くのは初めてだ。
「え、学校の帰りだけど」
『急いで本局に迎え!!』
「え、どういうこと?」
 状況が飲み込めない。だが、緊急事態だということだけは理解した。
『今、本局は襲撃されてる』
 フェイトの背筋がゾッとした。


 クロノとの取引でアレルが提供した情報は組織のアジトの場所だった。アレルから聞き出したのは合計3カ所。そして2カ所はアレルが普段訪れたことがあるアジトとあって既に退去した後だった。そしてもう1カ所。ここはアレルが場所の位置だけを知っていた。案の定まだそのアジトは使われていた。そしてクロノは監視と偵察を繰り返し、そして今日そのアジトへの突入が結構されたらしい。だが、アジトは見事にものけのからだ。どうやら組織に一杯喰わされたらしい。
『そして本局への連絡の途中に爆音が鳴ったんだ。通信は切れてそれっきり繋がらない。断定はできないが、おそらく組織の人間だろう。本局の戦力が薄くなった時を狙ったんだ』
「でも、どうして組織は今日だってわかったの」
 その状況を防ぐために必要最低限の人間にしか、決行の日を伝えていなかったはずだ。現にフェイトは今まで知らなかった。
『あまり考えたくはないが、内通者がいたのかもしれない。作戦の参加メンバーの殆どは当日に何をやるのかを伝えた。それまでは大規模な戦闘としか伝えなかった。つまり』
「上層部の中に内通者がいる」
『おそらくは』
 フェイトの頭を過ったのはアレルのことだった。情報の発信源はアレルだ。
 もしかしたら、アレルもこの件に関わっているのかもしれない。もともとこの情報を流すために学校まで入って、とそこでフェイトは首を横に振った。
 正直に言ってそんなことを考えたくなかった。今までのアレルが嘘で作られたものだと思いたくない。
 アレルは、常識外れで、少し天然で、でも自虐的で、何処か儚げで、決して人を騙すような人じゃない。これも本人に言ったら「人殺しが人を騙さないなんてなんで言えるんだよ」なんて呆れるだろう。
「それでもアレルは」
 フェイトは強く拳を握りしめて走りだす。


 本局の最下層の檻にシルアはいた。手枷をしたままコンクリートの壁に背をあずけている。向かいの檻にはヨルがベッドの上に横たわって起きてるんだか、寝てるんだかわからない。
 ここに送られてから数日が経つと、流石にすることもなくなり、ただ時間を持て余すばかりだ。アレルの裁判は明日行われるらしい。もう後一日の辛抱だとしても、退屈の時間とはなんとも苦痛だ。
「ヨ〜ル。暇だぁ」
「………」
 このやりとりも数十回はやった。最初のうちはヨルも返事をしていたが、ここまでくるともはやピクリとも動かない。
 檻の外にある時計は、午前11時を指している。この檻の中での唯一の楽しみである食事の時間までには後1時間もある。
 自然と溜息を吐く。
 すると、ヨルの耳がピクッと震える。そして体を起こした。
「どうした、ヨル」
「何か上が騒がしいわ。爆弾が爆発みたいな音が聞こえる」
 この檻がある部屋と他の部屋は完全に隔離されている。入ることも正当な理由がなくてはいけないし、外の音さえも普通の人間には聞こえない。猫の使い魔であるヨルだからこそ聞こえるのだ。
「爆音ねぇ。何処かで模擬戦闘でもやってるんだろ」
「それにしては多いわ。しかもかなり大きい」
 ヨルがこれまでにない真剣な表情で、シルアにも状況の深刻さが伝わってくる。
作品名:If ~組織の少年~ 作家名:森沢みなぎ