If ~組織の少年~
ヨルが鼻で笑う。
「シルア、わかってはいると思うけどそれをあの子の前で言わないことね。貴方も気付いていると思うけど、あれはそう意味じゃないわよ」
ヨルに釘を刺されて、二の句も出ない。
シルアもあの行為がどういった意味なのかは考えていた。シルアの言う通りただの願掛けや呪いなのか、ヨルが言うもっと別の意味なのか。
「ま、今はそんなことより」
フェイトとの約束を守るのが優先だ。
シルアは角を曲がると、目的の場所が見えた。そこは時空航行艦のポート。
ロードにクライス、その他の魔導師たちもすでに管理局が返り討ちにした今、ルギアに勝機はない。早々に撤退する、とシルアたちは予想したのだ。
「けど、ヨルがここの道を把握しててよかった」
「私は基礎魔法が貴方より得意だから」
言葉に棘がある。やっぱり怒ってる。
それ以上、ヨルに話しかけることなく、シルアはポートへと下りた。そこには二隻の航行艦がある。
ルギアはすでに乗ったのか、まだポートに来ていないのか、どこかに潜んでいるのか。
シルアは頭をフル回転させる。ここで選択をミスれば、逃がすことになる。
「さて、どうしたものか」
行き詰っていると、ポート内に機械音が流れた。
『航行艦『グラバス』があと五分で帰還します。係の人は準備してください』
このタイミングで帰還。おそらくクロノたち突撃部隊が戻ってきたのだろう。これで五分間、ルギアは航行艦で逃げることができなくなった。
シルアの口元が緩む。
「ヨル、艦の中を探すぞ」
シルアとヨルは艦内部へと走った。
例えここで本局の内部に逃げ込んだところで袋のねずみ。
一隻目の艦内をくまなく探すものの、ルギアは見つからない。艦を下りて、次の艦へ行こうとしたとき、ルギア・マークスがシルアたちを待っているかのように立っていた。
「やぁ、シルアくん。いや、今はアレルくんだったかな」
こんな状況にも関わらずルギアはまるで友人に話しかけるようにシルアに声をかけた。
「まさか、君程度の人間にクライスさんが負けるとは思わなかった。彼も歳だったのか、それとも君がそれだけ強くなったってことかな?」
不気味だ。
この状況でなぜへらへらしてられる。こういう開き直った人間ほどなにをしでかすかわからない。
「アンタの御託はいい。さっさとかかってこい。その様子だとまだ諦めてねぇーんだろ」
「いや、もう無理だよ」
返事は予想外のものだった。
諦めてる。だから開き直ってるのか。
「ロード、クライスもやれて。もうこっちに手駒は残ってない。この本局を占拠するのはもう無理だ。だから――」
ルギアが不敵に笑う。
背筋がゾッとする。
コイツなにかやる気だ。
「本局を壊滅することにしよう」
そう言ってルギアは指を鳴らす。すると、ポート内で爆発が連発する。
「なっ――!!」
ポートに瓦礫が降り注ぐ。
シルアはそれを避けるようにして移動する。
「爆発はここだけではない。本局中で起こっている。これでここもおしまいだ」
自滅。それがルギアの選んだ道。
シルアはルギアに向かって走り出す。これ以上爆発させないようにルギアを抑える。
「無駄だよ」
再び、指を鳴らすとシルアの足元が爆発した。
「ぬっ!!」
幸いにもギリギリで気付き、バックステップで直撃は免れた。
しかし、可笑しい。あそこに爆弾らしきものはなかったし、なによりなぜルギアは指を鳴らすような合図を送った。あれでは今から爆発しますよ、と知らせているようなものだ。
それらから考えられることは一つ。
「爆発の希少能力か……」
「よく気付きましたね。ですが、気付いただけじゃ私は止められませんよ」
再び指を鳴らす。
シルアはその場から離れ、爆発を回避する。
何回か見る限りでは、爆発は床や物などの物質が爆発している。気体や液体は爆発させられないようだ。それと同時に爆発の原因が空気中の気体によるものでもないとわかる。
さしずめ魔力を爆弾に変えているのだろう。
そして問題はその変更条件。
これが分からなければうかつに近づけない。シルアは爆発を避け続ける。
そして六回目の爆発を避けた時、ルギアはシルアに魔弾を放つ。
「凍結結界、初式『凍結陣』」
足元に展開された魔方陣に魔弾が入ると氷の塊へと変えられる。
「さすがに強い。私のような参謀では貴方を仕留めることは難しいようですね」
ルギアが会話を挟んだ。
そして違和感がシルアを導く。
なぜ今まで爆発で攻めてきたルギアが魔弾を放った。そして組織のリーダーのルギアならシルアに魔弾の攻撃が効かないことぐらいわかっているはずだ。
そしてもう一つ。なぜここでルギアが話しかけたのか。連撃は相手を崩すためにある。それを止めてまで今、話しかける意味はない。
つまり、話しかけざるおえなかった。
シルアの中で一つの予想がたつ。
今度はシルアから動く。大きなジャンプを繰り返し、ルギアに近づく。
ルギアもすぐさま指を構えるが、鳴らさずに再びシルアに魔弾を放った。
「初式応変、『凍結壁』」
シルアの足元にある魔方陣が壁のようにシルアと魔弾の間を隔てる。魔弾がその障壁に触れた瞬間、魔弾は氷へと化す。
そしてシルアはどんどんルギアへと迫る。
そこで初めてルギアの顔が歪む。地面に無造作に散らばった瓦礫を一つ拾い上げ、シルアに投げて指を鳴らす。
瞬時に凍結壁をただの物理障壁へと変える。
瓦礫は爆発し、シルアは爆風に押され後退させられる。
だが、シルアの顔は明るい。ルギアの能力の正体を掴んだのだ。
先程のシルアの特攻で、ルギアは爆発を使わなかった。いや、シルアが爆発した地面を飛んで向かってきたから使えなかったのだ。
つまり、ルギアの能力は単発式で事前に準備されたものということになる。
そして変換条件はルギアが投げた瓦礫が教えてくれた。
先程の瓦礫は爆発の影響で地面から剥がれたもの。それには当然事前の準備などされていない。だが、爆発した。つまり、ルギアが拾い上げて投げるまでにその瓦礫が爆弾に変換されたということだ。
これらを考えれば変換条件など見当がつく。
ルギアの能力は物質に魔力を付けて爆発させるもの。
触れたものを爆発させる希少能力だ。
「どうやら、私の能力の正体が何かわかったようですね」
シルアの表情を見て察したのか、ルギアが呟く。
「ですが、それだけでは私の能力を封じることはできません。本局の方もいい具合に崩れてきました。さて、タイムリミットは迫ってますよ」
爆発の余波で本局は今も崩れ続けている。
しかし、そんなことをシルアは気にとめていなかった。
いつの間にかにいなくなったヨル、ポート前を数名の局員が走る足音。
戦っているのはなにもシルアだけではない。管理局員たちもまた本局を支えようと戦っているのだ。
それに気付かないのはルギアが冷静ではないからだ。
この勝負はすでに決している。
「いきますよ。今度は手加減しません」
ルギアは両手に瓦礫を持ち投げて、指を鳴らす。
シルアの手前で瓦礫は爆発し、そして地面も爆発した。
作品名:If ~組織の少年~ 作家名:森沢みなぎ