If ~組織の少年~
「ねえ、みんなどうしたの?」
フェイトが前の席で喋っていた女子生徒に尋ねる。
「今日、このクラスに転校生がくるんだって。今、みんなその噂で持ち切り」
「転校生?」
「私、転校生見るの初めてだ」
まるで珍獣でも見るかのような事をいうフェイト。
「フェイトちゃん、動物じゃないんだから」
「でも、転校生ってどんな人だろう。男の子? 女の子?」
「そこまでは分かってないんだ」
そう言うと女子生徒は前を向きなおし、友達と喋り出す。
「優しい人だといいな」
とフェイトが言った瞬間、教室の扉が開き、担任の教師が入ってきた。
「ほら、席に着け」
生徒達は一斉に自分の席へと座っていく。
「今日は欠席はいなそうだな。それじゃあ、ホームルームを始めるぞっとその前に」
教師がそこで止めると生徒達は教師に期待の視線を向ける。
「その顔だとみんな知ってるみたいだな。えっと、今日はみんなに新しくこのクラスで一緒に勉強する生徒を紹介する。おい、入って来い」
その掛声と同時に生徒達は扉に視線を向ける。そして扉が開き、一人の男の子が教室の中へと入ってくる。
男の子は教師の隣まで行くと生徒達と向かい合う。
「っ!!」
その顔を見て、フェイトは愕然とした。その顔は昨日、道を聞かれた人であり、クロノから見せられた人だ。
『な、ななななななのは!!』
ガタンとなのはの席で物音が聞こえる。
どうやら、フェイトの念話に驚いたようだ。
「どうした高町」
「いえ、なんでもありません」
『ご、ごめん、なのは』
『大丈夫だけど。どうしたの、フェイトちゃん?』
『あ、あの人。クロノが探してる犯罪組織の』
『ええ!! あの人が!!』
「それじゃあ、ミルトン。自己紹介」
「はい」
男の子は一歩前へ出る。
「イギリスから来ましたアレル・ミルトンです。短期の留学なので2ヶ月しかいませんが、どうかよろしくお願いします」
フェイトとなのはは、クラスメイト達に囲まれたアレル・ミルトンと名乗る転校生を見つめる。質問攻めにあっているアレルはたじたじとなっている。
「フェイトちゃん。なのはちゃん」
フェイトが念話で呼んだはやてが合流する。
「あの子が例の」
「うん、間違いない。写真にそっくり」
フェイトはポケットから一枚の写真を取り出し、二人に見せる。
「少しピンボケしてるけど、確かに似てる」
「どうする? 思い切って捕まえる?」
はやての問いにフェイトは首を振る。
「さっきクロノに連絡した。もうすぐ、学校が包囲されるから、捕まえるのはその時」
「分かった。とりあえず、今は様子見だね」
なのはの言葉ではやては自分の教室に、フェイトとなのははそれぞれの席へと戻る。
一時間目の国語が始まる。フェイトはジッとアレルを見つめる。
アレルは真剣な表情で黒板をジッと見つめている。教師がチョークで書く文字を一字一句の逃さずに書いている。
そんな真剣な表情にフェイトにも迷いが生まれる。
(本当にあの子が組織の魔導師なの? ぜんぜん、そんな風には見えないけど)
しかし、時間が経つにつれアレルの目に疲れの色が見え始める。やがて、頬杖をつき始め、そしてついにアレルは机に突っ伏し、寝息を立て始めた。
(やっぱり、人違いかも……)
フェイトに大きな不安が生まれる。
昼休みにもなるとクロノから準備が完了したという連絡が入る。既にこの学校は管理局の局員達によって包囲されているという事だ。
フェイト達三人も既に段取りを決めて配置についている。
執務官のフェイトがアレルを屋上へと呼び出し、投降するように説得する。それが失敗したら先に屋上に隠れていたなのはとはやてと一緒にアレルを拘束する。
フェイトは席から立ち上がり、クラスメイト達と一緒に話しているアレルに近づく。
「あの少しいいかな?」
「俺になんか用?」
「うん、ここじゃ少し……。屋上に来てくれない?」
教室中が騒めき出す。学校で可愛いと有名なフェイトが転校生を呼び出した。周りの生徒は「もしかして告白!!」「嘘、フェイトちゃんが!!」「一目惚れってやつ!!」などと聞こえてくる。
だが、今のフェイトにそんな騒わめきに耳を傾ける程の余裕はない。アレルを引き連れて屋上に向かって歩く。
屋上に出ると強い風が吹きつける。綺麗な金色の髪を押さえながら、フェイトはアレルと対峙するように向きなおす。
「ごめんね。こんな所に呼び出して。私、フェイト・T・ハオラウン」
「いや、別に気にしてない。それで俺に用って」
フェイトは制服の胸ポケットから一枚の写真を取り出す。それは組織から逃亡した少年の写真。
フェイトはその写真をアレルに見えるように持つ。
「この写真に写っているのは貴方ですね?」
「……」
アレルは黙ったまま、答えない。
「貴方は魔導師、ですね」
「魔導師? えっと、もしかしてテスタロッサさんってソッチ系の人?」
困ったような顔をするアレル。誤魔化しているのか、本当に知らないのかは分からない。
「それにその写真、確かに俺に似てるようだけど、ピンボケが酷くてはっきり分からないだろ。テスタロッサさんが何をしたいのかは分からないけど、それは俺じゃないよ」
そう言ってフェイトに背を向け、立ち去ろうとするアレル。
「イギリスからの留学生、アレル・ミルトン」
アレルは立ち止まり、振り返る。
「確か、母国に家族がいますよね。お母さんが一人」
「ああ、いるけど」
「名前はニエル・ミルトン。今は確かイギリスで働いていますよね」
「ああ」
フェイトはアレルに近づき、スカートのポケットから四つ折りにした一枚の紙をアレルに手渡す。
「これは?」
「貴方のお母さん、ニエル・ミルトンはこの世界に存在しないという証明書です」
「………」
「それ以外の偽装は完璧でした。でも、その一点だけは穴だったみたいですね」
もう、言い逃れできない状況になったと思った時、空から屋上に降り立つ人影。
フェイトはアレルからバックステップで距離を置く。
「シルア!!」
アレルの前にやって来たのは黒髪長身の女性。ただ、その頭から生えた猫の耳とお尻から生えた猫の尻尾が女性が人間ではない事を語っている。
「ヨル……。合図出すまで出てくるなって言っただろ」
「そんな悠長な事言ってる場合じゃないでしょ。急いで逃げないと」
「それは無理だ。もう、この学校は包囲されてるし、それに屋上にももう二人いるみたいだし」
アレルはそう言って顔だけを後ろの貯水タンクに向ける。
そこからバリアジャケットを纏ったなのはとはやてが姿を見せる。
「いつから気づいていたんですか?」
となのは。
「君達が仲良く話してたからいるんだろ〜な〜、と思っただけで確信があったわけない」
とアレルは余裕の笑みを浮かべる。
「って何かっこつけてんの!! 急いで逃げないと」
「だから、無理だって。上見てみろ」
言われた通りヨルが上を見ると、空が蒼黒くなっている。
「こ、これ!?」
「空間遮断のエリア結界だ。もう、戦うしかないんだよ」
その言葉になのはとはやては身構える。
「待ってください!! ここで投降すれば貴方には弁解する機会が」
作品名:If ~組織の少年~ 作家名:森沢みなぎ