If ~組織の少年~
魔力を凍らせる力は何度か見てきたがこれ程までに強力なのは見るのは始めだ。それが凍結の魔力変換資質の力なのかは分からないが、はやてのラグナロクを凍らせる程の力があるとは思えない。
これはあのアレルと名乗る少年の力。自分自身の魔力変換資質を限界まで極めた力だ。
(油断しちゃダメ。相手は強い)
バルディッシュを握りしめ、アレルを見る。
「バルディッシュ」
《Haken Form》
改めてファームを作ると氷は砕け、新しい刃が生まれる。
『フェイトちゃん大丈夫?』
なのはからの念話。
『うん。それより、あの人の能力』
『凍結の魔力変換資質。私、初めて見たわ』
とはやて。
『どうする? 魔法も魔力効かないとなると』
『二人とも、ここは私に任せてくれない? 私に考えがあるんだけど』
『もしかして、フェイトちゃん燃えてきたんとちゃう?』
『あ〜。フェイトちゃん、意外と戦闘マニアだから』
『ち、違うよ!! 本当にいい作戦があるの!!』
『わかったわかった。ここはフェイトちゃんに任す。なのはちゃんもそれでええな』
『うん。それでフェイトちゃん、私達はどうしたらいいの』
フェイトは二人に自分が考えた作戦を伝える。
『なるほど、確かにそれが一番安全な方法かも』
『よし決まりや!! 二人ともしっかりな!!』
『もちろん』
三人はアレルを取り囲むように三角形を作る。
アレルは警戒しながらもその様子をジッと見ている。
三人が狙うのは短時間での連続攻撃。アレルの凍結スピードを上回るスピードで攻撃するのだ。
「プロズマランサー」
「刃持て、血に染めよ」
フェイトは4つの魔弾を、はやては5つのダガーを形成する。
「ファイア!!」
「穿て、ブラッティダガー!!」
合計10つの魔弾とダガーがアレルを襲う。
「凍結陣!!」
再び、アレルの足元から魔法陣が展開される。魔弾とダガーはなんの抵抗もなく氷と化す。
「全力全開!!」
《Divine Buster》
さらになのはの砲撃がアレルを襲う。
「レーヴェ!!」
《Protect》
それをアレルは両手を突き出し、正面から障壁で受ける。
「雷光一閃!!」
アレルの後方でザンバーフォームのバルディッシュを担いだフェイトが叫ぶ。
空からバルディッシュへ雷が落ち、そのエネルギーをザンバーフォームの刀身に蓄積させる。
「プラズマザンバーブレイカー!!」
フェイトが振り下ろしたバルディッシュの剣先から雷光を伴った強力な砲撃がアレルへと向かう。
「クソ!!」
まだ、なのはの砲撃を受け流せていないアレルは左手を障壁から離し、体の向きを無理やり変えて左手をフェイトの砲撃の方へと向ける。
「凍結掌!!」
冷気を纏った左手に砲撃がぶつかる。
砲撃に挟み撃ちにされたアレルの体は悲鳴を上げ、骨が軋む音が聞こえる。
やがて、なのはの砲撃は止み、フェイトの砲撃も氷柱へと化す。
アレルは両手をダランと落とす。その顔には疲労の色が見える。
「はぁああ!!」
そんなアレルに休む暇を与えず、駈け出したフェイトはザンバーフォームのバルディッシュを振り上げる。
「舐めるなぁ!!」
アレルは最後の力を振り絞ったかのように右手でバルディッシュの刃を受け止める。
「凍結全開!!」
刃は一瞬にして凍結する。
フェイトはその凍結したバルディッシュを手放す。そしてアレルの正面へと回るとその体に抱きつく。
「なっ!! 何してんだ!!」
アレルはその行動に驚き、冷静な判断力を失う。
フェイトは体中にある魔力を電気へと変換し、自分の体に纏わせる。
「うああああ!!」
フェイトに抱きつかれているアレルは必然的に感電し、その苦痛の叫びを響かせる。
そしてフェイトがアレルの体から離れると、アレルは力なく地面へと倒れ気を失う。
フェイトは息を切らしながらその場に座り込んだ。
「フェイトちゃん!!」
なのはとはやてがフェイトの元へと駆け寄る。その顔は戦闘が終わったとあって一安心といった様子だ。
「なのは、はやて。怪我はない?」
「大丈夫や。フェイトちゃんこそ大丈夫なん?」
「うん、平気だよ。少し魔力を使いすぎちゃったけど」
そう言ってフェイトは倒れているアレルに視線を移す。その体はバリアジャケットの御かげで少し焦げている程度で済んでいるが、フェイトは少しやり過ぎたのではないかと心配になってきた。あの時は必死で力加減が出来ておらず、全力で電気を流してしまったのだ。
「気絶してるだけだよ」
フェイトを気遣ってか、アレルをバインドで縛っているなのはが呟く。
「それにしてもこの人凄かったな。一対一だったらやられてたかもしれん」
「うん。それにこの人は魔力変換の使い方を熟知してるよ」
「そうそう、凄かったね。魔力を氷に変えるなんて」
二人の会話を聞いているとフェイトはある疑問が生まれる。
フェイトの最後の攻撃。魔力を電気に変換する間、短い時間とはいえ、アレルなら攻撃出来た。なのに、攻撃はしなかった。
「ねぇ、最後の攻撃なんだけど。この人なら反撃出来る時間はあったよね?」
その言葉に一瞬、二人は言葉を失うが、すぐに苦笑する。
「え? 何、どうしたの?」
「いや、何と言うか。なぁ」
「う、うん。フェイトちゃんは必死で見えなかったかもしれないけど」
二人は電気を浴びる前のアレルを見ている。フェイトに抱きつかれ顔を真っ赤にして焦るアレルを。
それは懐を取られて焦っていた顔ではなく、フェイトの行動に驚いて焦っていた顔だ。
「まぁ、つまりはこの人も男の子だったちゅーことやな」
とはやてはまとめるが、フェイトは未だに首を傾げて頭にクエッションマークを浮かべている。
「あ、そうだ。クロノ君に連絡するの忘れてた!!」
なのはが慌てて通信機を取り出し、連絡をしようとする。
「その必要はない」
空から声が聞こえたかと思うとクロノが空から降りてくる。
「あ、お兄ちゃん」
「あ、じゃない。まったく、連絡くらいすぐしてくれ」
そう言ってクロノはアレル一瞥する。
「確かに写真の奴だな」
「うん。後、使い魔の子もいたみたいだったけど」
「そっちは僕が捕まえたよ。少し手こずらされた」
クロノは通信機を取り出し、誰かと話し始める。
『クロノが手こずるなんて。使い魔の人も強いかな?』
『たぶん、この結界を破るような事言ってたし』
『やっぱりこの人ただ者じゃないな』
クロノは通信を終え、三人の方に顔を向ける。
「彼はこのまま一旦アースラの方で預かる事になった。三人はもう大丈夫だから学校の方へ戻ってくれ。助かったよ」
「うん。わかった」
そう言ってクロノは杖をアレルに向けると移転魔法をかける。一瞬でアレルの体は消え、クロノもそれを見ると空へと戻って行く。
程なくすると結界も消え、学校も何事もなかったかのように授業が始まった。
ただ、
「なんだ。アレルは転校そうそう早退か」
いないアレルは体調を崩して早退扱いとなった。
授業が終わるとフェイトの席にアリサとすずかがやってくる。
「フェイト、いきなり転校生を屋上に呼び出したんだって。随分と大胆ね」
作品名:If ~組織の少年~ 作家名:森沢みなぎ