If ~組織の少年~
フェイトが転校生を呼び出した事は既に学校中の噂となっていた。周りのクラスメイトもアリサの質問の返事に興味津津のようで、聞き耳をたてている。
「そんなんじゃないよ。ただ」
「ただ?」
フェイトは答えに迷う。
ここでアレルを捕まえたと言えるはずもない。
「ただ、ちょっと用があっただけで……」
「だから、その用を知りたいんじゃない」
「アリサちゃん、フェイトちゃんが困っているよ」
アリサを見かねたすずかがフェイトを庇う。
「そうだよ。それに私もはやてちゃんもいたから」
「え? じゃあ、もしかして仕事関係?」
アリサの問いにフェイトが頷くと「な〜んだ」と言ってアリサは呟く。
「いや、私は転校生の方に脈ありな気がするで」
「うわ!!」
「はやてちゃん、いつかいたの!?」
いつの間に現れてのか、はやてが話を蒸し返す。
「はやて、ホント? 転校生、確かミルトンだっけ」
アリサが食いつく。
「うん、私の勘やけど」
「も〜、二人ともいい加減にして」
フェイトは少し顔を赤らめ恥ずかしそうに怒るが、そんな顔で怒られてもまったく怖くない。
「なるほど、フェイトを好きな奴はいっぱいいるけど、少しこれは面白くなりそう」
アリサはこれでもかと言うほど、悪い顔をしていた。
「ハックション!!」
これでもかと言うほど大きいくしゃみでシルアは目が覚めた。
「……」
自分のくしゃみで目を覚ましたことに驚き、自分の変さに疑問を感じる。
「自分のくしゃみで目が覚めるなんて、なんか凄いわね」
姿は見えないがヨルの声が何処からか聞こえる。
「うるせ、俺も驚てるんだよ」
ゆっくりと体を起こし、今の状況を確認する。
暗くて狭い牢屋の中、腕には鉄製の枷、これだけで自分が捕まった事はよく分かる。
そして向かいの牢屋で捕まっているヨルも同じような状態でいる。
「たく、俺はどのくらい寝てたんだ?」
「ここに入れられてから三時間くらいよ。私はそれよりも前に来たけど」
「なんだよ。俺よりも先にやられたのか?」
「うるさいわね。相手が悪かったの。どうもAAAクラスくらいはあったわ」
「それは無理だ」とシルアは呟く。
シルアは辺りを見回し、誰もいないことを確認すると、自分の両手に魔力を籠めようとする。しかし、魔力は集まらない、それどころか魔力すらでない。
「無理よ。その枷は魔力が体内で結合するのを邪魔するから、魔力を使ってここから出ることは不可能」
「自前の力でここから出ろと?」
「そう」
大きな溜息を吐く。
どうやら、管理局の出方を待つしか何もすることはないらしい。
「それにしたって運がないわよね、シルア」
「どうして?」
「だって、魔法がない世界のしかもただの学校に管理局の魔導師が三人もいるなんて普通はありえないでしょ」
「あー、確かに。どうしてこうもやる事なす事上手くいかないんだ。あ、そう言えば、どうもこの世界では黒猫は不吉の象徴みたいらしいぜ」
シルアのその一言がヨル癇に障った。
「何よ。私がいるからいけないの?」
「ヨル、黒猫だよな」
「ええそうよ。黒よ、黒猫よ、真っ黒よ。だから、この参事は私が招いた不吉だって」
「そうは言ってない。この世界だとヨルは不吉だって事」
「そう言ってるじゃない!!」
「お前がそう思ったらな悪かったよ。さっきのはただの話の話題だ。別にお前がいたせいでこんな惨事になったわけじゃない」
「ふんっ、どうだか。だいたい、シルアだってあんだけ余裕そうにしてたくせにあっさりあの女の子達に負けちゃったじゃない」
カチンときた。
「あっさりとじゃねーよ!! 熱戦だったんだ!!」
「結局負けたんだから変わらないじゃない。女の子に負けて恥ずかしくないの?」
「女の子でも三人だぞ、三人!! しかも、かなり強かった!! 三人ともAAAランクくらいはあった!!」
「そんな事あるわけないでしょ。嘘吐くならもっとマシな嘘吐きなさい!!」
「嘘じゃねーよ!!」
「じゃあ、何よ。私達が来たこの町の学校には管理局の魔導師が三人もいて、さらにその三人はAAAランクだったって言いたいの?」
「そうだ!!」
自信満々で言い張る。
「バッッッカじゃないの!! そんな事あるわけないでしょ!!」
「あるんだよ!! マジで!! いきなり、砲撃をバンバン撃ってくるし、挟み撃ちにはされるし、終いには……」
そこでシルアは言葉を止める。
まさか、ここで女の子に抱きつかれて隙を作ったなんて言えるわけがない。
「終いには?」
「……なんでもない」
「何よそれ!! 何があったのよ!!」
「いや、別に何もなかったよ。そう何もなかった」
ヨルのジトッとした目がシルアを容赦なく追い込む。
「ふ〜ん、あの女の子達と何かあったんだ」
ビクッと肩を震わせる。
なぜこの猫はこんなに勘がいいだ、と怖くなる。
「い、いや、何もなかった……」
「目が泳いでるわよ」
「目が泳ぎたいって言ってるんだ」
ヨルはジッとこっちを見て、視線を外そうとしない。
なんでここまでヨルがしつこく疑ってくるのか分からないシルアはただその視線から逃げるようにして明後日の方向を見続ける。
そんな状態が数分続いた時、薄暗いこの部屋に光が差した。そして部屋に複数の足音が近づき、やがて足音だけでなくその姿も見えてくる。
一人は黒のバリアジャケットを見に纏い、黒い髪、黒い瞳を持つ青年。そしてもう一人は青年よりも年上の男。管理局の制服に腰まである白い髪、その碧眼はキリッと鋭い。
正反対の容姿の二人はシルアの牢屋の前まで来ると止まる。黒い青年が檻の鍵を開ける。
「出るんだ」
黒い青年は冷たく言葉を吐く。
「いやいや、良い所に来てくれたよ、管理局。ここ空気悪くて」
シルアは場の雰囲気とは裏腹に嬉しそうに牢屋から出ると前を歩く二人に付いて行った。
後でヨルはこっちを睨んでいる。振り返っていないがシルアには痛いほど伝わってくる視線を感じた。
シルアが連れ出されたのはさっきの牢屋よりも少し広いくらいの部屋。そしてその真ん中には机と二脚の椅子。
どこかの刑事ドラマで見る取調室のようだ。
「座るんだ」
黒い青年に促されて、シルアは椅子に座る。そして向かいには黒い青年が座る。白い男は壁に寄り掛かってこっちを黙って見つめてる。
「アレル・ミルトン。この写真は君で間違いないな」
唐突に始まった取り調べ。
黒い青年はフェイトが持っていた写真と同じものをシルアに見せる。
「ああ、確かに俺だ。それにしても自分が写ってる写真を見るのは初めてだ。よく撮れたな。そんな隙みせた覚えはないんだが……そこらへんは流石管理局だな」
「変な詮索はいい。それよりもなんでこの地球に来た。ここで何をするつもりだったんだ」
その質問にシルアは大きく溜息を吐く。
なんでそんな事を聞くんだ、とでも言いたげな顔だ。
「そんなの見ればわかるだろ。学校に行くためだ」
当然だ、と呟くシルアに黒い青年の眉間に皺が寄る。
「そんなわけないだろ。本当のことを言え」
静かながらも威圧のある言葉。
黒い青年とシルアは静かに睨み合う。
「別に信じろとは言わないさ」
作品名:If ~組織の少年~ 作家名:森沢みなぎ