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樹ニ入ル(誰が為に陽光は輝くネタバレ)

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 硬貨をちゃりちゃりとてのひらでもてあそびながら、オヤジはほしのすなの皆を見回した。
「衛士の詰め所が見えるあたりを散歩するってんでもなければ、世界樹に入るにゃあ荷物がいる。それに冒険者(ねなしぐさ)の連中ってのは、本当の貴重品はいつも身につけてることが多い。オマエらだってそうだろ」
 そうオヤジに問われ、ほしのすなの面々は互いに顔を見合わせ頷きあった。
「で、な。例の魔物にやられたって連中だがな。本人たちもだが、荷物も帰ってこないらしい」
 え、と。理解しきれないという表情で、ソードマンが首をかしげた。
「全員分じゃあねぇがな。多少は死体も見つかってるんだが――見つけた連中の言葉によると、身ぐるみはがされてるってほどじゃあねぇが、どうも世界樹の中に入ってるような感じじゃなかったとか」
「それって、その見つけた連中が荷物をないないして口をぬぐってるってだけじゃあないのか?」
「ばっか、世界樹の中だぜ? 拾いものを懐にいれるのは当然の権利だ」
 うえ、と。オヤジの言葉に、ソードマンはイヤそうな声をあげた。
「メディックやアルケミストが杖を持ってないってことはあっても、ソードマンが剣も戦斧も持ってないってこたぁねぇだろう。超一流の冒険者や、公宮の精鋭には劣るにしたって、十三階まで自力で上れる連中だ。一つ二つくらいの宝石(たくわえ)は持ってるもんじゃねぇか?」
「……盗賊が出るって言うのか? 世界樹の中に」
 パラディンの言葉に、オヤジは肩をすくめた。
「魔物っつったじゃねぇか。傷跡が違うんだよ」
「しかし、魔物が宝石や剣なんかに関心を持つものなのか? ……その言いにくいことだが、傷跡というのは死んでから魔物につけられたものとも考えられると思うんだが」
 さぁね、と。オヤジは首を横にふる。
「公宮が派遣したメディックが見分したわけじゃあねぇからなぁ。あくまで見つけた連中の弁だ」
 皆はそれぞれに顔を見合わせた。しかし、実物をみてもいない状態で、何か有益な考えが浮かぶはずもない。
「……公宮のメディックが見分したわけでないということは、調査隊の派遣はまだだということですか」
「ああ。まぁ、さすがにまずいってんで、調査隊を派遣したいとは思っているらしい。っても十三階だろう? そおっと調査するってんならともかく、あのあたりをうろつける冒険者を狩るようなヤツが相手となると――なかなか難しいらしい」
 ま、そろそろ公示が出るかもしれんがな、と。オヤジの言葉に、皆は頷きあう。それを見回しながら、オヤジはもったいぶった口調で言った。
「だから、今がチャンスってわけだ。考えてもみろや。公宮からの公示が出たとすれば、それに従わざるを得ない。となれば、荷物が見つかろうが魔物が珍しかろうが、すべて調査って名目でめしあげられちまう」
「うわぁ、出たよ」
 イヤそうに呟き、ソードマンはオヤジから顔を背ける。そのさまに、オヤジは軽い拳骨を一発、彼の頭に落とした。
「んなこといったってさー、世界樹で全滅した連中の荷物なんて、なんかついてそうじゃん」
「……よし。じゃあおまえは目の前にぴかぴかの焔をまとった紋章入りのそれはそれは素晴らしい斧が落ちてたらどうするんだ」
「持って帰る」
 間髪入れぬ迷いのない答えに、オヤジは大きくため息をつく。肩をすくめ、小馬鹿にしたように首を左右にふるさまに、ソードマンはそれが有効活用というものじゃないかとくってかかった。
「っまぁ、それはそれとしてだ。懸賞金とそれ以外、どっちをとるかって話だな。別にねこばばなんざしなくとも、危険な魔物を公示前にどうにかしたとなれば、それなりにいいことはあるだろ。新種だったりすればばんばんざいだ」
 なるほど、と。ソードマンをいなしながらのオヤジの言葉に、メディックは頷いた。
「他に何かわかっていることはありませんか? たとえば、襲われたギルドの特徴とか、逃げ帰ってきた人はいないのかとか」
「あんまり確かな情報じゃあねぇけどな。魔物が出るのは、昼時らしい」
「この手のって普通、うしみつどきに後ろからってやつじゃないのか?」
「そんな時間にあんなとこをうろうろしてる冒険者がたくさんいるわけねぇだろ」
「そーかなー」
 はいはい、オマエらは強い強い、と。半ば馬鹿にするような口調でオヤジはひらひらとてのひらをふる。ほめてないだろというソードマンの言葉には、人間夜は寝るもんだと返し、おかわりを勧めることで話題を変えた。