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樹ニ入ル(誰が為に陽光は輝くネタバレ)

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 ソードマンが身体をおるのと、火球が炸裂するのはほぼ同時だった。
「お、おい、一体!」
 パラディンがアルケミストをいさめようとするも、すでに第二陣が発動している。さらには三発目、四発目と、次々に場所を変えながら焔の華が咲く。アルケミストというよりはガンナーの攻撃といった具合の速度だった。
「ソードマンをこちらに」
 アルケミストをどうにかしてとめるべきか、と。身体の向きを変えかけたパラディンは、メディックの言葉に動きを止めた。
「公宮はいまだ調査隊を派遣していない、報告などないはずです」
 メディックの言葉に、パラディンはあっと声をあげた。そして、大急ぎでソードマンの元へと走る。
「っ――!」
 つんとくる独特の鉄錆のにおい。ソードマンの口元は赤く濡れていた。
「かは……」
 ぼたぼたと白い雪に散る鮮血。パラディンは、ソードマンをこわきに抱えると、メディックの元へと引きずる。そのすぐ後ろで、さらに火球が炸裂した。
 焔に背を押されるようにして、パラディンはメディックのもとへとたどりついた。メディックは小さくうなずくと、パラディンからソードマンを引き受けると、用意してあった水筒の水を彼の口に流し込んだ。続いて、口中へと手をつっこむ。独特のいやな音とともに、雪の上に胃液と未消化の食べ物が混じった汚物が散った。
 えづきが止まったところで、メディックは再度水筒を口元に近づけた。
「飲まないで。そのまますぐに吐き出して」
 メディックの言葉を聞いているのかどうか。そもそも、従うだけの力がないのか。メディックが差し出した水の大半は、ソードマンの身体を濡らすにとどまった。
 いつしか火球が炸裂する音はやんでいた。
 清潔な布で、ソードマンの口元をぬぐい、メディックは顔をあげる。
「どうでしたか」
 辺りは惨澹たるありさまだった。彼らが仕留めたはずの魔物は、いくつかの部品となってあたりに散らばっている。それだけではない。近隣の立木はどれもこれも焼け焦げ、枝が折れ、幹がえぐられていた。雪がふきとばされ、地面がむき出しになっている場所もあった。
「……跡形もなく消し飛んだ」
 わけはないか、と。そうつぶやいてパラディンは眉を寄せた。ソードマンの吐血のあとは、すでにわからなくなっている。だから、衛士の血の跡がないというのは、さしてたるてがかりとはならないだろう。だが。いかにアルケミストの手加減なしの焔術であったとはいえ、人一人の身体が跡形もなく消滅するということはありうるだろうか。甲殻類の魔物にくらべれば、人の身体はもろい。だが、彼は全身をフルプレートアーマーで覆っていたのだ。何一つ残らないというのは考えづらい。
 だが、あのタイミングで連続して放たれた焔術から逃れうるものだろうか。
「逃げた、と、思っておきますか」
 メディックはそう口にすると、身体を起こそうとするソードマンを押しとどめ、皆に一度街へ戻ると告げた。