Sore/nante Fate
~深夜の衛宮邸~
今夜、聖杯戦争と呼ばれる一つの奇跡が撃鉄となり。
なんとも奇妙で奇天烈な自分同士の戦闘が始まろうとしていた…
「マスターを、凛を返してもらおうか。」
「待て、スケジュールを確認する。」
携帯のメモ帳を開く。
当然予定など無い。
「・・・・・・。」
思考を開始する。
逃げる――か?
だが逃げの一手に力を集約させ、果たして俺は逃げ切る事が出来るのか?
魔術回路は二十七本正常に稼働している。
自慢じゃないが長年住んできた場所だ、地形は完璧に把握している。
敵さんは人外、それに比べて我が方の戦力は気絶したお荷物が一つと魔術使い一人。
「無理だな。」
完全に積んでいる。
ならどうする。
俺は死なない、腕が吹き飛ぼうが腹が裂けようが死ぬつもりはない。
第一に俺の生存は絶対、まあ二番目位に遠坂。
武装は創造理念、基本骨子、構成材質、製作技術、憑依経験、蓄積年月の再現による物質投影。
世界卵による心象世界の具現、魂に刻まれた『世界図』をめくり返す固有結界。
武器を引き出す場合、使用目的に最も適した武装を ”無限の剣製” から検索し複製する。
「ふむ、いい加減くだらない時間稼ぎは終わったのかね?」
流石にこんな明らかな時間稼ぎには乗ってこないか。
「時間稼ぎ、何を言ってんだてめぇ。」
無抵抗に殺られてたまるか、脱却する。
この立場から、勝てないなら勝てる武器を用意すれば良い。
強者に転じる事が出来れば、恐れるものはなにも無い。
余計な思考を全て捨てる、弱者の今を考えるのはすべて自分の蛇足にしかならない。
今はまだ、俺はアイツには勝てない。
絶対的な強者と弱者の壁がある。
勝てる物を用意しろ。
思い出す、先の光景。
アイツと互角に戦っていた青タイツ
持っていたのは槍、俺には似合わない紅い槍。
現時点で俺の手札にアイツを倒し得る武器はそれしかない。
「――――投影、開始。」
「投影魔術だと!?」
――――憑依経験、共感終了。
よし、投影は成功した。
手には例の紅い槍。
俺の熱く滾る衝動は、何者にも止められない。
そう、俺は自由な旅人。
フリーダム!!
うぱああああああああああああああああああああああ!!
憑依した経験を頼りに槍を振り上げる。
「ぬっ!!」
驚きに満ちた声が漏れていた、だがそれも一瞬。
アイツはそれを何処からともなくとりだした白黒の双剣でなんなくそれ受け止める。
ふ、ふひひひひひひひひひひひひ!!俺の全力を止めるか!
それなら――――
「――――同調、開始」
「――――構成材質、補強」
「――――全工程、完了」
自信の体を強化する為に余計な手間は必要無い、基本骨子も構成材質何年も前に把握している。
今回は右手首から上だけを強化、数秒ほどだが鋼を砕いたとしても無傷でいられるだろう。
「ふっ」
槍を左手に持ち替え、空になった右手を思いっきり腹部に叩き込む、途中白い剣が割り込んできたがそれも難なく砕く。
ガコッ
鈍い音がした。
「たわけ、英霊に接近戦を挑んだか。」
俺が与えた攻撃は全く効いてないのか、強烈な足蹴りが俺の体に迫る。
左手の槍で内臓を守る。
「ガッっ」
身体がダンプカーに跳ねられたように吹き飛び、俺は土蔵の壁にぶち当たり停止する。
「っく、っは、あー痛ぇ……」
ガードした腕がじくじくと痛む。
咄嗟に衝撃を拡散しなかったら内臓が逝ってたか。
折れそうになった膝を、何とか堪え立ち上がる。
が―――
「ぬうん!」
いつの間にか近くに来ていたアイツは胃の中すべての物を、ぶちまけそなほどの威力のパンチを放ってきた。
咄嗟に身に着けていた衣服を強化する、それでも衝撃は消せない。
「ごぷっ! ぷっ……」
吐血。
ボタボタと血が溢れ出た。
「胃か、肺辺りがやられてるか……はぁっ……」
殴られた影響か、俺は土蔵の中へと転がり込んでたみたいだ。
身体を起こし、地面に垂れた血を擦る。
震える手でそばに転がっていた槍を掴む。
しかしそれも空気に溶け込むように消滅してしまった。
急造の投影のせいか、そんな事より手元に武器が無い、これじゃあアイツを殺せない。
武器を用意しようと意気込んでいたらアイツがゆっくりと土蔵に入り込んできた。
「貴様の命もこれまでだ、ランサーの宝具を投影した時には驚いたが、やはりこの程度か。」
「そんな事言ってないで、さっさと俺を殺さないのか?」
口からこぼれた血を舐める。
「自分の死を望むのか、私には理解できんな。その思考。」
アイツは静かに目を瞑り、人振りのナイフを出現させた。
この時、先ほど士郎が吐いた血は静かに光り輝き、魔方陣の形を作ろうとしていた。
無論士郎は気づいていない。
「いいな、その殺気。心地よいぜ。」
ナイフの刃が俺の首目がけ横一線になぎ払われた。
このまま呆然と倒れていたら―――死ぬか。
動け。
ある程度、最低限、足りない部分は強化で補い。
飛び込んできたアイツ目がけ、俺は逆に詰めていった。
「何!?」
アイツは心底驚いたのか、驚愕に目を見開いて呆然としている。
踏み込もうとした場所を予測、
後退し下がろうとするアイツに対して今度は俺から攻める。
――――投影、開始
急造の投影。
ただただ、速さだけを求めアイツの持っていた白い剣を投影する。
半死人だと思って油断したのがてめぇの運のつきだ。
「………ぐ……」
喉の奥からこみ上げてくる吐き気。
「げほ……!」
血の水を吐き出す。
咄嗟に俺は後ろへと飛び、身体を手で支える。
「血が、足りねえか……。」
壁に手をつたい、倒れそうになる体を支える。
俺は静かに覚悟を決め、目を閉じる。
すると目を閉じていても判る程の閃光が迸る。
それは数秒だったのか。数分だったのか。
とりあえず光が消え、そこに立っていたのはアイツと同じくすさまじい気配を持つ一人の少女だった。
少女は静かに俺を見つめ、そばで剣を構えているアイツを凝視する。
そして静かに頷き。俺に対してこう言った。
少女 『問おう。 貴方が、私のマスターか――』
士郎 『人違いです。』
少女 『うぱああああああああああああああああああああああ!!』
作品名:Sore/nante Fate 作家名:mo