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君振リ見テ我ナニスル

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 ゆっくりと頭を上げたタカ丸は嬉しそうに微笑んでいた。
「ううん。それぐらいなんだよ。仲直り出来ただけじゃない。僕らは一つ前に進む事が出来たんだ。あのままただ仲直りしてただけじゃ僕らはいずれ終わっていたかもしれない。……これは今も変わらないけど」
 一瞬表情に影が落ちる。その意図する所が分かるだけに滝夜叉丸は言葉に詰まる。しかし、直ぐに何かを吹っ切ったようにタカ丸はいつものような笑顔に戻る。
「でもね、何もお互いに分からないまま、進む事が出来ないまま終わるよりも、今みたいにお互いを知って、進みながら道を決める事が出来る事の方が何倍も良い事なんだと思うんだ。終わりを覚悟して進むわけじゃない。一緒に進む覚悟をして、その先に待つ選択肢を二人で選んでいく。僕はそういう関係になれた今が凄く嬉しいんだ。そして、そういう関係になれたのは滝夜叉丸君達のお陰なんだ」
 だから、ありがとう。とタカ丸は再び頭を下げた。今度は慌てる事もなく、滝夜叉丸はそれを受け、そして今にも泣きそうな笑みを浮かべた。
「滝夜叉丸君?」
 今まで見た事の無い表情にタカ丸は僅かに動揺する。
 タカ丸が知っている滝夜叉丸は高飛車で自尊心の塊で、自分自身を誇りに思い、それを隠しもせず周りに触れ回る。そして、その所為で低学年から少なからず、いや、大多数の生徒に疎まれている。しかし、その実は頭の良さと人好きな一面から誰の相談も親身になって受ける心優しい人物だ。だが、滝夜叉丸は滝夜叉丸だ。どれだけ優しくても自尊心の高さは変わらない。人に弱みを見せる事を第一に嫌う。そんな彼がこんな表情をするなんて。
 友の知らぬ一面に息を呑んだタカ丸は恐る恐る手を伸ばそうとした。が、それは阻まれた。
 遠慮も無く開いた襖に立っていたのは喜八郎だった。その手には愛用の鋤を持っており、顔には土が付いている。何をしていたかは一目瞭然だった。
 喜八郎は固まったままのタカ丸を一瞥すると何も言わず部屋に上がり、鋤を片隅に置き、己の寝間着を用意し始める。
「おい、喜八郎。何か言う事はないのか?」
 彼が寡黙なのは了承済みだ。しかし、訪ねてきたタカ丸に対して失礼だろう、と滝夜叉丸は責めるような物言いをした。すると、喜八郎は悪びれた様子も無く淡々と言った。
「旨くいって良かったですね。おめでとうございます」
「え、あ、ありがとう。さっきも滝夜叉丸君にも言ったんだけど、二人のお陰だよ。本当にありがとう」
「私は特に何かした覚えも言った覚えもないんですけどね。まあ、一応受け取っておきます」
 愛想の一つも無い物言いに滝夜叉丸は溜息を漏らす。また何か言おうとした所をタカ丸が慌てて止める。
「ほ、ほらお礼を言うのは僕の自己満足だったわけだし! 綾部君もお風呂に行くみたいだし、僕そろそろ帰るよ」
 じゃあね、と二人に手を振ってタカ丸は慌しく部屋を後にした。
「全く……」
「年上に気を遣わすなんて滝夜叉丸も厚かましいよねー」
「お前に言われたくないわ!」
 喜八郎は寝間着を手にしたまま滝夜叉丸の前に身を屈める。一瞬身構えてしまう。
「な、なんだ」
「そんな酷い顔してよく言うよ」
「!」
「今、自分がどんな顔してるか、水桶でも見てみれば?」
「……そんなにも、酷いか?」
「タカ丸さんに分かるぐらいにね」
「そうか」
 肩を落とした滝夜叉丸の頬を一撫でし、喜八郎は「お風呂入ってくる」と部屋から出て行った。
 喜八郎に触れられた頬に触れ、滝夜叉丸は顔を顰めた。
「二人で選ぶなんて、私達には到底無理な話だな……」
 誰も居ない部屋。だからこそ滝夜叉丸は浮かんだ涙を遠慮なく零す事が出来た。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 想いを自覚したのは自分の方が先だと滝夜叉丸は知っていた。
 最初は何も考えていない体力しか能が無い呆れた先輩だ、という印象だった。はっきり言えば嫌いと言える部類に入っていた。同じろ組の先輩で言えば中在家長次との方が気が合いそうだと思っていた。滝夜叉丸も彼と同じく本が好きだ。
 だから、そういった意味でも始めは図書委員会に入りたいと思っていた。しかし、一年生の委員会選挙の際に「体育委員会は能力に優れていないと務まらない」と噂で聞き――今思えば少しでも優れた委員会要員を増やしたいが為に体育委員会自ら流した噂のような気がしてならない――、幼少の頃から自分の能力を過信していた滝夜叉丸は進んで体育委員会に手を上げたのだ。
 委員会の顔合わせの日。初めて滝夜叉丸は小平太とまともに会話をした。当時三年生だった小平太は既に風格を見せ始めており、当時の委員長からも一目置かれていた。
「おー、一年生かー」
「はじめまして。平滝夜叉丸といいます。よろしくお願いします」
「私は七松小平太だ! そんなに硬くなるな!」
 現在と変わらない豪快な笑い声で小平太は滝夜叉丸を歓迎した。

 改めて委員会活動を知った滝夜叉丸は想像していたものと違う事に落胆を隠せなかった。確かに演習用の道順を確認したり、その後直ぐに己も演習に参加しなければならないのは容易なことではなったが、滝夜叉丸にとっては良い訓練と思えた。しかし、「優秀な生徒しか出来ない」という触れ込みと反し、要は体力が有れば務まるのではないか、という疑念が生まれたのだ。ならば最初から図書委員会に入れば良かった。もしくは統率力を身に付ける為に学級委員に。
 滝夜叉丸が体育委員会に不満を感じた要素は他にもあった。
 それは「七松小平太」だ。
 彼は確かに下級生とは思えない体力と身体能力を持ち合わせている。現委員長も他の委員もそこを認めている。しかし、滝夜叉丸にとってはそれがどうしたという話だった。
 委員会活動中も彼はよく己だけ先に進み、予定とは遙か離れた山まで一人で赴き、集合場所に楽しげな顔で帰ってくる。委員長らは「お前今度は何処まで行っていたんだ」と問い、小平太が「裏裏山まで」と答えると、「本当に体力だけは無駄にあるな」と笑うのだった。滝夜叉丸にとってはその会話が腹立たしくて仕方が無かった。彼の所為で委員会は予定の活動が終了しても解散する事が出来ず、帰って早く予習と復習をしたい自分にとっては弊害以外の何者でもなかった。
 それを笑って許す先輩も先輩だと思う。裏裏山まで行きたかったのなら委員会が終わってからにすればいい話だ。他の委員に迷惑を掛けている事を責めようともしない。
 一体彼の何が特別だというのだろう。
 確かに現時点で一年生である滝夜叉丸は小平太には適わない。だが、上級生は知識も体力も小平太には負けてはいない。なのに、どうして彼を特別視出来るのだろうか。
 己よりも劣っている人物を。
 滝夜叉丸はそれがどうしても理解出来なかった。

 次の委員会選挙の時には必ず体育委員会を辞めよう、そう滝夜叉丸は心に決めていた。
 しかし、新学期の委員会選挙は学園長の急な思いつきの行事の所為で取りやめになってしまい、その次は家から学園に向かう際に崖崩れで道が塞がり足止めを食らってしまい、選挙に遅れてしまった。結局滝夜叉丸は一年生をずっと体育委員として過ごす羽目になってしまったのだ。

 そして、二年生になり、夏休みが明けた初めての委員会活動。
作品名:君振リ見テ我ナニスル 作家名:まろにー