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君振リ見テ我ナニスル

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「私は、もうどうしていいのか分からない……。このまま先輩が卒業するまで二年前の私を演じ続けていく自信がない」
 吐息のような声は滝夜叉丸の心情を露にしている。
 不意に温もりを感じ、隣を見やると、長次が至極真面目な面持ちで滝夜叉丸の顔に手を添えていた。
「せ、んぱい……?」
「お前は、二年前の小平太が好き、なのか?」
「私は……あの時の先輩も、今の先輩も好きです。でも、今の先輩の事を私はきっと何も知らない。……中在家先輩達よりも」
 歪んだ顔が物語るのは独占欲。学年が違う故に知る事の出来ない部分がある。その事が滝夜叉丸の胸を苦しくさせる一因であった。
「私も、お前の事は知らない。田村達より、も」
 言いたい事が分かった。
 こればかりは仕方が無いのだ。
 だが、と自己完結させようとしていた滝夜叉丸の思考を長次は言葉で塞き止めた。
「本当に好き、なら知る努力をする。すればいい話だ」
「私はそうしたい。していいのなら今すぐにでもしたい。でも! でも先輩の方はそう思ってはくれていない」
「滝夜叉丸は小平太と、同じ場所、同じ気持ちでないと不安なの、か?」
「そうです。これが自己中心的な考えというのは百も承知です。ですが、私はあの人に想われている自信がないんです」
 長次の頬が微かに緩む。これには滝夜叉丸は瞠目した。
「いつも自信満々、の声高らかに己の、優秀さをひけらかすお前、とは思い難い、台詞だな」
「……私は優秀です。誰にも負けるつもりはありません。でも……」
「それとこれは、違う話、か」
「そう、です……」
 俯きかけた顔を長次の手が止める。そして、固定されたその顔に徐々に己のそれを近づけてくる。元々狭い塹壕の中だ。距離を縮めるのはあまりにも容易い。しかし、長次の突然の行動に滝夜叉丸は戸惑いを隠せない。
「な、中在家先輩!? ど、どう、どうしたんですか!?」
「……いつも図書室で、二人で居る時のお前は傲慢さが無くなって、いて……私はとても好きだった」
「は!? えぇぇぇぇっ!」
 前触れの無い告白に滝夜叉丸は先程までのしおらしさも消し飛び、「いやいやいやいや!」と慌てふためくばかりだ。しかし、いつの間にやら長次は空いた手で滝夜叉丸の手を、身体の体重を使い、身体を押さえ込んでおり、抵抗しようにも全く効果が無い。
「せ、先輩! ちょ、ちょっと待って下さい! 急にどうしたんですか!?」
「急じゃ、ない。ずっと想って、いた……。そんなに小平太で、不安になるなら私、にすればいい」
 私ならばそんな不安な思いはさせない。低く耳元で囁かれ、滝夜叉丸は全身の血液が沸騰するような感覚に陥った。思わず目を強く閉じる。
 だが、ここで許してはいけない。
 自分は、例え相手に本当は想われてもいなかったとしても、自分は。
「や、やめ……っ!」
 いよいよ唇が触れ合いそうになった瞬間。
 何かが落ちてきたような大きな物音と共に急に身体に圧し掛かっていた重みが無くなる。そして、聞こえてきた声に目を開けて驚愕する。
「長次ぃ!」
「な、七松先輩!?」
 正に小平太が長次の胸倉を掴み上げ、今にも殴りかからんばかりの勢いだった。長次は抵抗もせず、ジッと小平太を見つめている。
「どういうつもりだ!?」
「な、んの事だ?」
「白を切るつもりか!?」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 先輩、中在家先輩を放してください!」
 一瞬現状が飲み込めず、硬直していた滝夜叉丸だったが、我に返ると咄嗟に長次を庇うように小平太の腕を掴んでいた。
「離せっ!」
 そう怒鳴られ、睨みつけられた滝夜叉丸は身を竦める。小平太の今の姿を滝夜叉丸は見た事が無かった。いつも豪快に笑っている小平太ではない。時に予算会議で会計委員長と対立する時もここまでの剣幕ではない。これは、小平太は本気で憤怒している。
 滝夜叉丸は背筋に悪寒を感じた。しかし、止めないわけにはいかない。このままでは長次が殴られてしまう。見た所長次自身は抵抗する気が無いようだ。
「待って下さい! お願いします、先輩!」
「お前は黙っていろ! それともお前も同意だったのか!?」
「ち、違います! けど、」
「私が、もう小平太には滝夜叉丸を任せられないと思った。だから、気持ちを伝えた」
 いつもは風の音にも負けてしまう長次の声が怒りで我を見失いかけている小平太にも届く。あの長次が声を張り上げているのだ。
「どういう意味だ!?」
「そのままの意味だ。滝夜叉丸をあんな、にも泣かせておいて平気な面をしている、お前に滝夜叉丸は渡せない」
「!」
 小平太が息を呑む。そして、先程までの剣幕とは一転、小さな声で呟いた。
「泣いた、のか」
 それが自分に向けられての言葉だと分かるまでに数秒を要した。
 小平太の視線がゆっくりと滝夜叉丸に向けられ、慌てて涙に濡れたままだった顔を拭った。それは長次の言葉を肯定しているに等しかった。
 歪められた小平太の表情に滝夜叉丸は胸を締め付けられる思いをする。
 そんな顔をしてほしかったわけじゃない。言い訳が滝夜叉丸の脳裏を過ぎる。
 乱暴に長次の胸倉から手を離した小平太に安堵の息を吐く。しかし、その力強い手は今度は滝夜叉丸の手首を掴み上げた。痛みに一瞬顔を歪める。
「どうしてだ。どうしてお前は泣いたんだ」
「あ、あの私は……」
「長次には言えて私には言えないのか!?」
 怒声に大きく身体を反応させる。身が竦み、上手く小平太を見る事が出来ない。知らぬ間にその視線は小平太の手から解放された長次へと向けられていた。それは火に油を注ぐ行為でしかなかった。
 手首を掴む力が更に強まる。痛いと訴えても小平太は耳に入っていないのか、全く緩めることをしない。
「もう、もう私の事が好きじゃないのか!? 長次の方がいいと言うのか!? 答えろっ!」
 滝夜叉丸! と詰め寄られてしまえば滝夜叉丸はただただ首を振るしかない。誰を見るでもなく、俯いて溢れ出そうになる涙を堪えるしかない。
 首を振ったのは「私は先輩が好きです」、「中在家先輩ではなく七松先輩がいいです」そういった意味を含めていたつもりだった。だが、小平太は違う風に意味をとったようで、頭上で歯を噛む音が聞こえた。
 顎を掴まれ、強引に顔を上げさせられる。付き合う事になったあの日にも行われた行為だ。しかし、今の滝夜叉丸には恐怖という感情しか湧き起こってこない。
 唇を微かに震わせ、明らかに怯えている滝夜叉丸の表情に、小平太は益々苦虫を噛んだような顔つきになる。
「言いたい事があるならハッキリと言えばいいだろう!」
 掴んだ手首を揺すられ、痛みに苦悶の表情を浮かべる。尚も黙り続ける滝夜叉丸に焦れた小平太は再び長次に向き直った。埒が明かないと長次に顛末を聞こうとしたのだろう。しかし、滝夜叉丸は再び長次が殴られようとしているのだと勘違いをしてしまった。
「ま、待ってください! 中在家先輩は何も悪くないんです! 私が、私が勝手に相談に乗ってもらって、それで中在家先輩は、」
 捲くし立てるように長次を庇った滝夜叉丸は小平太の目にどう映ったのだろうか。長次には容易に想像がついた。
 完全に恋人の気持ちが離れてしまった、そう思ったに違いない。
作品名:君振リ見テ我ナニスル 作家名:まろにー