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みとなんこ@紺
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we're wasting time!

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『狙撃されたんだって?人気者はつらいねぇ』
「・・・・・・。」
 お前、いくらなんでも情報が早すぎないか。というか昨日の話だぞ。誰だ直通で洩らした奴は。
我が親友ながら不審な物を憶えつつ、彼は周りにいる面々にも聞こえるように少し受話器を浮かした。
「盗聴器を仕掛けているならセクハラで訴えるぞ」
『お前執務室で何する気だ。つかそっちで訴えるってんならあっちこっちに仕掛けてる上のじーさんども片っ端から訴えろ』
 勿論セクハラで。

 問題はそこじゃねぇだろ、笑い事じゃねぇっつの、つか状況ほんっとに判ってるんですかあんたら。

と聞いていた誰もが同じ感想を抱いただろう時、ぶっと上司の目の前で1人吹き出した。
上司の命が危ないという状況の筈なのに堪え性も緊張感もない長身の金髪を睨み付けると、彼は慌てて姿勢を正してちょっとばかり身を引いた。それで目立たなくなったつもりか。

 執務室の中には、いつもの直属の部下の面々が揃っている。ヒューズの突撃電話が掛かってきたのは、昨日の襲撃についての話をしていた丁度その時だった。
 初っ端の会話が出来ると言う事は、外からか自宅からだろう。こちらはこちらでフュリーが手を加えた回線で受けている為、回線上盗聴の心配はない。お陰で余計に遠慮がなくなるというものだが。
 相変わらず不気味なほどにタイミングを合わせてくる男だ。この距離で盗聴器なぞ不可能なものではあるけれど、何だかんだと引き出しの多い事だし、何だかんだと来る度無駄な土産を置いていく事だし、今度またその辺漁ってみようか。
『ロイー?』
「聞いている。何でもうそっちにまで話が広がっているんだ。こっちではあまり口外しないようにしていた筈だが」
『あー…、じゃあそれ多分無駄になるぜー』
「何故だ?」
『今日、そっちのタブロイドの一面飾る事になってる』
「…何だと?」
 ヒューズの茶化すような口振りが消えた。
『中央からそっちに移ったフリーのライター崩れがな、目下ライバルのライターからスクープ自慢されたが、そいつから事実かどうかの問い合わせがさっきな』
「…お前変な繋がり持ってるな」
『お前に言われたくねぇよ』
 ま、そいつ曰く、パンチの効いた見出しになるはずだから楽しみにしとけって言われたとな。
「…その話を聞いたフリーのライターに連絡を取れるか」
『ま、そうくるわな。バカだが悪い奴じゃねぇんだ。大それた事やる度胸もねぇ気の弱いやつだから、あんまり苛めてやらんでくれ』
「大丈夫だ。とびきりの美人が独占インタビューしてくれると伝えてくれ」
『・・・あー・・・』
 微妙にヒューズの声が遠くなったような気がするが、あーあ、と思ったのはこの中のごく一部だった。その程度の些細な話は気にする風もない。
「未遂で済んだが、市内で狙われるのは久々だったな。警戒を緩めているつもりはなかったが」
『近場の連中はほとんど片付けただろ』
 声明も予告もなかったから、デモンストレーションではないだろう、それだけに厄介な予感がする。
「ここから忙しくなるという時期に面倒な…」
『おいおい、標的はお前だろ。他人事みたいに言うな』
 まぁ、こっちも他に何かネタが手に入ったらまた流すさ、とヒューズは笑った。
『ま、初回は無事でなによりって事だな』
「初回とか言うな。一度で十分だ。犯人の腕がいまいちだったお陰でな。狙撃手が中尉ならもう今頃土の下で百合の花でも貰っている頃合いだ」
『縁起でもねぇなぁ。ま、しばらく気を付けろよ』
「お陰でしばらくデートも禁止だ」
『清い生活してさっさと嫁さ』

 プツ。

 ・・・・・・ひっでー。



「さて」
 しかも何でもなかったように話続けようとするし。
 恐らくあの先、いつも通りの嫁&娘談義に縺れ込むだけだっただろうことは目に見えているが、それにしても今のはどうよ。
 だが、笑顔で電話を切った上司は、笑顔ではあるがとてもではないが上機嫌には見えない。ポーカーフェイスが身上だが、別にバレても構わない所であればそのまま駄々流しになるので、ご機嫌斜めなオーラがガンガン伝わってくるのだ。
 触らぬ神に何とやらとかいう上手い喩えがあったはずなので、それぞれ一様にそこには目を瞑った。

「中尉はそのライターとやらの素性を洗ってコンタクトを取ってくれ。そこから記事を書いたとかいう者も一緒に。話の出所が知りたい」
「了解しました」
「ブレダとファルマンは動きのありそうな所を洗ってくれ。直近で関係なさそうな声明が届いている所でも何かしら引っ掛かった物があれば些細なものでも構わん」
「はっ」
「うぃす」
「フュリーは昨日の襲撃からこちらの通信記録を探ってくれ。司令部内から何処か不自然な場所へ連絡が飛んでいないか」
「はい!」
 各々敬礼を返して動き出した頃。
「あのー…」
「なんだ」
「オレはいいんスかね」
 それぞれが短い打ち合わせをしている横で、1人通常勤務っていうのも微妙に淋しいというか、何か落ち着かないというか。
 地味に挙手していると、くるりと上司がこちらを振り返った。
「お前、通信記録や暗号や資料検索やりたいのか?」
「無理です」
 というかやってもいいけどあまりお役に立てる自信がありませんというか。
 きっぱりと言い切ったハボックのカオを眺めて、上司は僅かに考え込んだあと、ああそうだ、と何事か思いついたように手を叩いた。
「ハボック」
「何しましょう?」
「そろそろ駅には並ぶ頃だろうから、そのタブロイド手に入れてこい」
「Yes,sir!・・・って、オレ、パシリっすか!? オレ今日非番だったの叩き起こされてコレってそれちょっと酷くないです!?」


「今現時点でお前がそれ以外の何の役に立つんだ!」


 おわー…ひっでー。
 さすがに外野連中も微妙に同情ぎみの視線を送る。
 それに更に泣きたくなってきたハボックだったが、確かに事の動かない現時点で自分の出来る事と言えば限られている。のは、判るんだが。もうちょっと、何かこう・・・!
 しかし、相手が相手。錬金術師は現実主義で合理主義者ばっかりだし、この人にはそれにプラスして傲岸不遜の権化でもある。そんなのに何を言おうとあまり通用しないような気がって、ああ。
「・・・いってきます・・・」
 いいんだ、貧乏くじ引くのは慣れてるんだ。
 微妙に切ない気分に肩を落として部屋を出て行くハボックの背に、通りすがりに皆からぽんぽんと肩を叩かれるのに、もう一つ切なくなった。


*


 結局、軍服のままそんなタブロイドを買いに行くわけにもいかず、(しかも本日の一面はイーストシティでも断トツの有名人だ)今日が非番だったのもあって、着替えて街に出た。
 どのみち、顔馴染みも多いのであまり意味はないと言えばないが、軍服のまま買ってるのを目撃されるよりはマシだろう。カムフラージュ代わりに真っ当な方も含めて適当に2,3誌買い込んでみる。
 そう言えば、とその上司が狙撃されたという現場が近くだったはずだ。何も残っていないかもしれないが、何事も現場百回の精神を忘れず。ハボックは行くだけ行ってみる事にした。
作品名:we're wasting time! 作家名:みとなんこ@紺