we're wasting time!
しかし予想に反して、あの一連のゴタゴタの後、結局再度狙われるような事も、大きな動きがあるわけでもなく、概ね何事もなく日々は過ぎ。
そろそろ他の些末事に埋もれようとしていた頃の事。
『よぉ!相変わらず頑張ってるねぇ大佐殿!』
さて寝るか、と思った矢先に自宅に親友から1本の電話が掛かってきた。どうやら連続の夜勤明けでまだ昼夜が逆転しているのか、やたらとテンションが高い。
・・・まぁ、この男は基本的にいつでもテンションは無駄に高かったが。
『面白いネタやろうと思ってさ』
「何だ。あの下らないのが片付いてこれから忙しいんだ。しょうもないネタだったら、」
『何かあちこちから狙われるらしいぞ、お前』
友人の声に混じるからかいの温度が少しばかり低い。
中に篭もる真摯さを感じ、ふざけるのは止めて、彼はズレかけた受話器をはさみ直した。
「・・・心当たりはありすぎるが、どういう事だ」
『ほら、よくあるだろ。指名手配犯とか賞金首みたいなの。裏で懸賞金跳ね上がったんだって。お前の』
首。
「…首、ねぇ」
口の中で繰り返し、何となく喉元をなぞる。
噂では聞いた事もあるが、主に軍に所属する目立つ奴、邪魔な奴に掛けられるらしい。恐らく向こうからみて賞金額の筆頭は大総統だろう。あとは要職に付いている目立つ将軍連中、そして対テロの最前線に立つ自分や、逆らえばただでは済まない北の女王陛下あたりがリストに昇っているのだろうか。
しかしそんな誰が掛け、誰が払ってくれるのかも怪しいものに群がる輩はそう多くはない。それを真に受けるとしたら、余程のバカか、他に何も見えなくなった夢見がちな奴だけだ。
この首を狙われ、それに正面から応える可能性があるとすれは、そこにあるのはもっと純粋なものだろう。
悪意か、憎悪か。そんな。
何を引換にしても絶対に許す事はない、そんな強いものでなければ。この首を持っていけばいいと自分の心を折るほどのものがなければ。
・・・並大抵の覚悟では覆されるような事がないと判っているからこそ、そう思うのだが。
「――――まぁ相手がどういう主張を持っていようと私にも目的がある。そう簡単にくれてやるつもりはないが」
『バカ、そんな軽く持って行かれてたまるか。さっさと片っ端からふんじばっちまえ』
軽口に紛らわせているが、これは探りでも入れられているのだろか。残念ながらヒューズが思うようなことはまだ何一つ起こっていないのだが。
はっきりいって、寧ろいっそ行動を起こして欲しいくらいだ。
「そうだな。浮き足だった連中なら行動も早いかもしれない。それに…」
『何だ?』
「何となく、何処がつり上げたのか判る気がする」
『へぇ?』
「今進行中の作戦の一つに大規模な薬品工場の摘発が含められている」
おそらく、合成麻薬の製造に原料なんかを流しているのではないかと噂される所だ。
証人は確保した。問題は物証で、できれば取引現場を直接検挙してしまいたい。
「踏み込むタイミングをずっと計っているんだが、向こうもなかなか慎重でね」
『軍の監視で周りをがっちり固められてると、肝心の納品先に物を移動出来ないってわけか』
「兵糧攻めをするつもりはなかったが、結果的に向こうが痺れをきらす方が先だったのかもしれないな」
『知らない間に面白いネタ転がしてるじゃねぇか。突いてやるから資料寄こせ』
「ほどほどにな」
『お前に言われてりゃ世話ねぇな』
「まぁ元々、そこそこ資料は集まっていたから探りを入れて貰おうかと思ってた所だったからな」
しゃあしゃあと言ってやれば、僅かな沈黙の後、弾けるような笑いが返ってきた。
『何だよ、もとから予定に入ってんならもっと高く売りつけてやればよかったぜ』
作品名:we're wasting time! 作家名:みとなんこ@紺