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図書館戦争 堂x郁 記憶喪失(郁視点)

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薄らと目を開けると白い天井が映り込んだ
傍で女性の泣き声が聞こえる

--- ここは・・・どこだろう

焦点が合わないまま、可能な限り回りを見た
一人の男性と目が合う
その目は自分をジッと捕らえ、見つめられると吸い込まれそうな気分になった

見つめられると身体が熱くなる
心臓が高鳴り、苦しいのに・・・不思議と嫌な気持ちではない

一瞬躊躇ったが、視線を逸らした後
年配の男性と手を握っている女性を見た後、掠れた声で問いかけた
「あのぉ〜ここどこですか?あなたたちは誰ですか?」
部屋の空気が張り詰めた気がした
他の人たちも自分を見て、驚いている表情をしている
自分は何か変なことを聞いたのだろうか?
首を傾げていると、「とりあえず、お医者様を呼んできます」と女性が声をかけ出て行った



診察が終わり、ひと通り説明を受けた
自分は『笠原郁』、年配の男性が父親の『克宏』、女性が母親の『寿子』
病室にいた人たちは職場の上司と同僚だという
郁は一言「そうですか・・・」と答え、両手を見つめていた

目覚める前に見ていた夢が思い出せない
何か大切なモノを掴もうとして、離れていった気がする
心に大きな穴がポッカリ空いて、スースーする気分だった

--- でも今考えることじゃないよね?

郁は前向きにこれからのことを話そうと、先程目があった男性に「あのぉー・・・」と声を掛けた
一気に説明を受けても名前が分からない
誰さんだっけ?と思いながら見つめると「・・堂上です」と静かに答えが返ってきた
郁は苦笑いをしながら「すみません」と答え、もう一度覚え直すから職場への復帰は少し待って欲しいと
上目遣いで堂上に伝えた

すると、寿子が「何言ってるの!」と声をはりあげ、「辞めて実家に戻ってらっしゃい!」と
郁の右手を自分の両手で包みこみ、力強く話す

自分の両親なのに、何故上司の前で失礼なことを言うのだろうか?
何か記憶を無くす前にあったのだろうか?
郁は克宏の顔を見上げ、助けを求めた

克宏は落ち着きなさいと、寿子の肩を揺すり気を落ち着かせようとしている

長い沈黙を破ったのは、堂上だった
「笠原三正の件は、休職扱いとさせて頂きます。
 そのうえで、除隊を希望する場合は再度ご連絡ください」
「堂上!」
小牧の制止を無視し、目線は郁に向かって堂上は話し続ける

「記憶が戻らずとも、本人の意思で復帰する場合もご連絡ください
 もちろん防衛部ではなく、業務部として復帰を望む場合は
 異動申請が必要になりますが、今回は特例で処理できるかと思います。」
一拍置いて、克宏が「分かりました」と頭を下げた

『除隊』
ズキンと心臓を打ち抜かれた気分だった
もう一度堂上を見ると、郁を振り返らずに他の三人を連れて病室を後にした

堂上の後姿は痛々しく、悲しそうな感じを受けた
郁はいつまでも閉まった扉を見つめていた

--- どうして記憶を失ったのかな?
--- 忘れたいことでも・・・あったのかな?

そっと胸に手を当て、ゆっくりと深呼吸を繰り返す
先程まで痛かった心臓は、落ち着きを取り戻している
目を閉じると、先程の堂上の表情が焼き付いて離れなかった