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図書館戦争 堂x郁 記憶喪失(郁視点)

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入院中、克宏から図書隊のこと良化隊のことを聞いた
そして、自分が抗争の最前線で戦う図書特殊部隊に所属していることも知った

--- 何故、図書隊に入隊したんだろう?

本が好きだから?良化隊から本を守りたかったから?
郁はグルグルと考えていたが、何も思い出せない
記憶を無くす前の私はどんな人物だったのだろうか?

ふと思い、克宏と寿子に聞いてみる
「兄が三人もいたせいか、一緒になって野山を駆けまわり、活発な子だったよ
 高校から大学卒業までは陸上をやっていた
 短距離では記録も残しているよ」
穏やかに話す克宏を他所に、寿子は苦虫を噛み潰したような表情で続けて話した
「もっと女の子らしく育てたかったわ」
ブツブツと話す寿子を見て、あー母親とは気が合わなかったんだなぁーと漠然と考えていた

その後も克宏が話す小さい頃の話しを、まるで他人の過去を聞いている気分で頷いていた



寿子が席を外した際、克宏が「郁はどうしたい?」と尋ねてきた
退院後、このまま図書隊の寮へ戻るか、茨城に戻るか
記憶が戻っていない郁にとって、すぐに図書隊へ復帰することは難しいと感じていた
かといって、茨城に戻れば寿子が二度と戻してくれない気もしていた

不安なことを克宏に告げると、「分かった。お父さんに任せない」と言って
入れ違いで入ってきた寿子に「電話をしてくる」と声をかけ出て行った



退院後、茨城の実家に戻った郁はホームビデオや写真を見ながら
記憶を取り戻そうと努力をしていた
しかし、思い出そうとすると頭の奥が痛み、苦しくなる

--- 無理に思い出さなくてもいいよね?

自然に思い出せるかもしれない。
前向きに考え、図書隊に戻ってから足手まといにならないように
柴崎から受け取っていた図書隊手帳を読みながら、少しずつ勉強を重ねた

一度覚えているからだろうか?
比較的スムーズに頭の中に入り、躓くことなく自主勉強は進んだ

実家に戻って一カ月になろうとした頃
病院から持ってきていた手提げの袋の中から、一冊の本を見つけた
表紙は少し破れているが、大事に扱っていたのだろう
青い童話の本を開き、読み始める

心が温かくなる・・優しい気持ちになる・・・

読み終わったとき、郁は堂上に逢いたくなっていた
--- 何でかな?

心がざわめく、居てもたってもいられない衝動が郁を追いつめる
逢いたい・・・あの人に逢いたい

郁は鞄の中に財布と携帯だけを入れ、家を飛び出した



記憶が無いのに、足は武蔵野第一図書館へと向かっていた
正門を通り、図書館入口に到着したはいいが・・・
勢いで来てしまった為、この後どうしていいのか解らない

--- 図書館に行っても堂上さんに逢えるかわからないし・・・

今更自分の行動が恥ずかしくなり、入口前でオロオロし始めた

「笠原?どうしたの?」
「あっ・・えっと・・柴崎・・さん?」
急に現れた柴崎に驚きつつも、名前合ってるよね?と自問自答しながら答えた

「・・・”さん”付けは要らないわ。柴崎でいいわよ」
郁はコクリと頷いた
「ところで今日はどうしたの?実家戻ってたんじゃないの?」
うっ!と一瞬怯んだが「あのね、家に居ても何も思い出せなくて・・・」と話を切り出し
「記憶無くす前まで居た場所に行けば、何か思い出せるかな?って思って・・」
郁はモジモジしながら柴崎に伝えた

「・・まさかと思うけど・・」柴崎はチラリと郁を見上げ「ここに来ること、ご両親にちゃんと話した?」と問いかける
郁はビクリ!と固まった

--- え?エスパーか?

「はぁー・・・やっぱり」
柴崎は溜め息を吐いた後
「笠原、実家に電話して今ここにいることをちゃんと伝えなさい」とビシッと指をさし
館外のベンチへ案内した

郁は渋々実家へ電話をかける
『郁!あなたどこにいるの?!』
「武蔵野第一図書館にいます・・・」
すると、寿子は「今すぐ戻ってきなさい!」と何度も話す
郁は少しだけ窮屈になり「電話切るね」と言って、一方的に切った

きっと直ぐに携帯に電話が掛ってくるだろう・・・
郁はこっそり、携帯の電源を切った

一応、実家へ連絡を入れた郁と柴崎は、他愛も無い話しをしていると
堂上、小牧、手塚が近づいてきた
--- あっ!堂上さんだ!

逢いたかった人物を見ると、何やら眉間に皺を寄せ仏頂面のまま
郁とは目を合わさず「で、なぜ笠原がここにいる?」と柴崎に問いかける

--- 見てくれない・・

病室で逢ったときとは違い、堂上との距離が遠い
物理的な距離ではなく、心の距離感が違う
やっぱり来ちゃダメだったのかな・・・と考えていると
「ハァー?!家出?!」と素っ頓狂な堂上の声が聞こえた
郁は慌てて「家出・・じゃないです。ちゃんと今連絡しました」と堂上を上目遣いで見上げる

目が合うと、堂上の瞳は僅かに揺れていた
心配そうな・・・苦しそうな表情で、郁を見ている
堂上は郁から視線を柴崎に戻し、「とりあえず、館内でも案内するか?」と話しを進める

--- 柴崎とは仲が良いんだ
ズキンッと心臓が痛くなる、なんだか頭も痛い気がする
すると、柴崎が郁の手を取り「私が案内しますわ」と歩き出した

--- 小さな手、白くて、柔らかくて、指も細くて、綺麗
郁は繋がっていない方の自分の手を見ながら、私と違う・・とポツリ呟いた