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世界一初恋 高x律 大切な気持ち

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【SIDE 律】

修羅場中は原稿を持って印刷所と会社の往復が多くなる
新人の俺は、写植が貼り終わった原稿を片手に今日も印刷所へ走る

仕事が忙しくなればなるほど余計なことを考えなくてするから助かる

『これからは遠慮なしでお前のこと口説くから』

電車の中で宣言された通り、職場でも二人っきりになれば側に寄って来て
「好き」と耳元で囁く
帰ろうとすると、高野さんが待っていて「一緒に帰ろう」と無理矢理付いてくる

高野さんの声を聞くたびに顔は赤くなってドキドキする自分が情けない
”嵯峨先輩”はあまり言葉で伝える人じゃなかった

だから余計に考えてしまうんだ
高野さんは昔リツに伝えられなかった言葉を俺に言ってるだけじゃないかって

「好き」って言われる度に、俺の胸をチクリと刺す
高野さんは誰に向かって言ってるんですか?俺ですか?それともリツですか?



印刷所を出て、グッタリしながら戻る途中、黒い子猫が道路を渡っていた

--- ソラ太みたい

そう思っていると、トラックが猫に向かって走ってきた
俺は反射的に身体が動いてトラックの前に出てしまった・・・

ドンッと音が鳴り、自分が跳ねられたことが分かった
でも不思議と痛くないんだ
胸に抱えた猫に視線を動かすと、モゾモゾと動いていた

--- 良かった。助かった

その後はあまり覚えていない
周囲の音も聞こえないし、なんだか目を開けているのに真っ暗で視えないんだ
身体は鉛のように重くて、指一本も動かすことができない

--- 俺、死ぬのかな?

意識が朦朧としている中、思い出したのは嵯峨先輩のことだった

夕暮れの図書室で本を読む先輩、向かい側には俺がいて、幸せな時間だった

先輩が話しかけてくれるだけでドキドキして心臓が壊れるかと思った

触れた個所が熱を帯びて、溢れる想いを言葉で伝えると先輩は優しく笑うんだ

『リツ』って呼ばれる度に嬉しくて、俺は泣きそうになるんだ

自己満足だけど、気持も記憶も全部リセットして、初めからやり直せないかな
全部忘れて、もう一度・・・・