世界一初恋 高x律 大切な気持ち
【SIDE 律】
俺と高野さん以外いない編集室のフロアーで
高野さんから「『織田リツ』って人物知ってるか?」と聞かれた
確かに知っている『織田利津』
母方の親戚で俺の従兄弟に当たる
年齢も一緒で、呼び名も一緒。
お互い一人っ子だったから、兄弟のように育った
だから「知ってる」と答えた
元々身体の弱かった利津は学校にも通えず一人部屋で本を読んでいた
俺も父が出版社の社長ということもあって、昔から本が大好きだった
ジャンルに拘らず、色々な本を一緒に読んだ
互いに感想を話し合い、とても有意義な日々を送った
だけど、利津が15歳の時、急に容体が悪化して眠るように亡くなった
穏やかな表情で、とても綺麗で、まるで眠ってるかのように
丁度その頃、俺には憧れの先輩がいた
中高一貫の学校に通っていた俺は、中一の時に二つ上の先輩に一目惚れした
三年間片思いをし、先輩を思っているだけで幸せだったのだが
高校一年の時、つい先輩に告白してしまった
先輩の名は『嵯峨政宗』
まるでストーカーのように先輩が借りた本を片っ端から借りて読んだ
貸出カードに名前を書く時、本名を書くことを躊躇い、つい利津の名字を書いてしまった
『織田リツ』
生前、利津に嵯峨先輩のことを話した事がある
寡黙でクールで、大人っぽくて・・・俺の憧れの先輩
利津はそんな俺に偏見を持たず「初恋なんだね?」と
優しい笑顔で話した事を覚えている
利津が他界したことを告げると、高野さんは取り乱し俺の胸倉を掴んだ
いつも職場では冷静沈着なこの人を狂わせるほど、利津との関係が深かったのだろうか?
その日は聞くに訊けない状態だったのだが、
翌日、高野さんに誘われるまま居酒屋に入り、利津とのことを話してくれた
だが、高野さんの知っている『織田リツ』は利津ではなく俺のことだと知ってしまった
両親が離婚したこと、その後父親と血が繋がっていなかったこと
更に『織田リツ』には婚約者がいて留学してるという情報を入手した大学時代の高野さんは
荒れに荒れまくって、自暴自棄になっていたことを話してくれた
それでも、リツのことは忘れることが出来ず、今も”リツを想っている”と話す
当時の俺に言ってやりたい・・・お前は先輩に愛されていたよって
俺の感違いがもとで別れてしまった縁
こんなに近くにいるのに、俺は名乗りを上げることはできない
だって・・・俺はこの人を狂わす程に傷つけてしまったのだから
--- もう二度とこの人を悲しませてはいけない
--- もう二度と・・・好きになってはいけない
それ以来、俺は高野さんを直視することが出来なくなり、
自然と距離を置くようになった
作品名:世界一初恋 高x律 大切な気持ち 作家名:jyoshico