世界一初恋 高x律 大切な気持ち
【SIDE 高野】
「俺さ、お前と『織田リツ』を重ねてるのかな」
「・・・・・・」
「正直、自分でも分かんねぇーんだけど、お前を見てるとドキドキすんだよ」
「・・・・・っ!」
「この気持ってなんだろーな」
「そ・・そんなの知りませんよ」
「『好き』って感情じゃねぇーの?」
「・・・高野さんは”リツ”と俺を重ねてるだけで、俺を好きなわけじゃないですよ」
「そーなの?」
「たぶん」
「なにそれ」
「お・・俺だって分かりません!」
グビッと残りのビールを飲み干し、次の缶に手を伸ばす
「リツがこの世にいないって知った時、血の気が引いた。
多分、心臓止まったと思う。それぐらいショックだった。
もう一度逢いたかったよ。」
「・・・高野さんは”リツ”のこと、本当に好きだったんですね」
「うん。大好きだった」
「そう・・ですか」
「でも、今はお前のことが『好き』みたい。
だから分かんねぇーんだよ。俺『織田リツ』を好きだったのかって・・・」
「はぁ?」
「どんな恋愛してもあいつのこと忘れられなかったのに、
あいつが”もういない”って知ったら、今度はお前のこと好きになってさ」
ソファーの縁に背を預け、天井を見上げながら話す
暫く沈黙が続き、時計の針の音だけが響く
静寂を破ったのは小野寺だった
「過去は・・・過去だと思います。
”リツ”だって、高野さんを過去に縛り付けたくはないと思います。」
「・・・・・」
「いい加減なこと言ってるのは分かってます!
でも!高野さんはそんなに自分を責めなくてもいいと・・思います」
「慰めてくれてんの?」
「そう受け取って頂いて結構です」
「どーも」
小野寺は両手で缶を握りしめながら真っ赤な顔で俯いている
こいつなりの精一杯の言葉なんだろーな
何だかそれが嬉しくて思わず緩む口元を隠しきれない
「俺がお前を『好き』になってもいーの?」
「それはダメです」
「なんで?」
「だから・・・高野さんは”リツ”を追ってるだけなんです。
俺じゃ・・・ないんですよ」
「なにそれ。さっき言った事と違うじゃねぇーか」
「とにかく!俺はダメです」
そういうと、小野寺は荷物を持ち「帰ります。お邪魔しました」と言って部屋を出た
追い掛けようと廊下に出たが、既に小野寺の姿はなかった
*
最近モヤモヤしていた気持が少しだけスッキリした俺は、珍しく寝坊をした
と言っても、普段から余裕を持って職場に向かっているので、この時間なら問題ない
玄関を開けると、同時に隣室の扉も開いた
「おはよう」
「・・・・・っ!」
「なんだよ。上司に挨拶もなしか?」
「・・・おはようございます」
「ってゆーかさ。何で言わなかったの?」
「・・・・・・」
「部屋が隣だって」
「そ・・それは・・言い出し難くて・・」
「昨日お前が挙動不審だったのはお隣さんだったから?」
「・・そうです」
「ふーん」
通勤途中の車内で聞いてみれば、一年前から隣人だったことが分かった
お互い不規則なため、顔を合わせることがなかった
「これからは一緒に出社できるな」
「嫌です!」
「なんで?」
「どーして俺が高野さんと一緒に行かなくちゃイケないんですか!」
「ん?俺がお前のこと『好き』だから」
「・・・・っ!だからそれは違うって言ってるでしょ!?」
キャンキャン吠える小野寺の頭を軽く撫でると、上目使いで睨む
「これからは遠慮なしでお前のこと口説くから」
「はぁ?」
「覚悟しとけよ」
耳元で囁けば真っ赤になって口をパクパクさせる
そんな姿も可愛いと思ってしまうのは、やっぱり好きだからだと思う
作品名:世界一初恋 高x律 大切な気持ち 作家名:jyoshico