神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件~10-18話
翌日、またお見舞いに来る。
今回はヴィータ抜きだ。
代わりにリンディ提督が居る。
「はい、なのはさん、レイジングハートは私が預かってたの」
「master ……Waaaaaaaaaa~~~~~~~~~~!」
まさかレイジングハートがこんなに泣くとは思わなかった。
一人でとても寂しかったのだという。
なのはを失うことは自分の主を失うことはデバイスにとって最も辛いことなのだと話してくれた。
よしよしと頬ずりするなのはとレイジングハートはとてもほほえましかった。
「なのはさんもみんなも聞いて欲しいんだけど、当分魔法の話は禁止ね、なのはさんは向こう半年間魔力の使用を禁止します」
「何故?」
「魔力を使うと言うことは、魔法を使うと言うことは心臓にもの凄く負担をかけるんです。
リンカーコアは、心臓のすぐ前にあってとてつもなく心臓を圧迫しています。
手術して日が浅いのにそんなことをしたら発作を起こして命取りになります」
そう、普段はなんでもないことが今は命取りになる。
だから魔法の使用は禁止なのだ。
ただ、なのはの話し相手としてレイジングハートを返してくれたのだが同時にそれは危険と隣り合わせでもあった。
なのはは、耐えるしかなかった。
とにかく半年間我慢すればまた飛べるようになるただそれは半年という永遠の彼方だった。
今は何も出来ない、ただひたすらに体を治すしかない。
でも毎日のあれは簡単に慣れる物じゃあなかった。
この日以来なのはは少しずつ下を向くことが多くなった。
(イヤ、なんで私ばかりこんな目に遭うの?)
(嫌、何時になったらこんな思いをしなくて良くなるの?)
(嫌、私は何の為に生きているの?)
下を向くとどんどんと後ろ向きな考えが湧き起こる。
本当は辛い胸の内を誰にも話せないことがだんだんとなのはを壊していく、お見舞いに来てくれる家族、友達にはそんな顔を見せる訳にはいかない。
作り笑いの笑顔の下で常に泣いているなのはが居た。
(なんでこんな事になってるの?)
(この体は本当に動けるようになるの?)
(もう誰にも迷惑かけたくないのに……)
それでもちょっとだけ嬉しいこともあった。
桃子がプリンやヨーグルトを持ってきてくれるようになった。
あの糞不味いメイバランスより、何百倍もマシだ。
1日1個だがそれが何よりの楽しみだった。
水曜日からはメイバランスを卒業し食事内容が大幅に変わる。
まずはミキサー食ミキサーでペースト状にした食事だ。メイバランスより更に不味い。
はっきり言って人の食べ物なのだろうか?とさえ思う。
ミキサー食をクリアすると次の食事からお粥が付いた。
オカズは信じられないほど細かくみじん切りにされている。
食感が無いと言うことが、これほど不味いとは……
お粥自体も米が細かく刻まれている……食感は極めて悪い。
でも、練り梅と鮭のフレークがあったのは有り難かった。
不味いお粥もなんとか完食出来る。
こうやって徐々に堅い食事へと変わっていく。食べる物が変われば当然臭いがきつくなる。
そしてやって来るおむつ交換、その後の臭いさえ恥ずかしい。
暫くは誰にも入ってきて欲しくなかった。
一週間経つ頃には普通の食事になっていた。
でも、栄養の計算がきちんと行き届いた食事は不味かった。
食事の度に嫌な気分になる。
そしてやって来るおむつ交換、本当はトイレに行かせて欲しいのに、
おむつの中で出しても時間にならなければ交換に来てくれないというのは最悪な気分だった。
おむつ交換の後でもアリサ達はお見舞いに入ってくる。でも、まるで臭わないかのように平然としている。
それが逆に嫌だった、あまりに気を遣われたその態度が許せなかった。
「もう良いよこんな関係!もうやめてよこれじゃあ私が惨めすぎるじゃないっ!
もう嫌だよ!こんな生活っ!何時になったら私は治るのっ?いつまでこんな思いを続ければいいの?
もうやだよ!もう嫌なんだよっ!お願い!死なせてよ!」
とうとう感情を爆発させてしまった。
「レイジングハート・セットア……」
レイジングハートを取り出してセットアップしようとした瞬間だった。
レイジングハートは真っ二つになって布団の上に落ちた。
士郎が小太刀を振り抜いていた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
なのはの悲鳴が病室に響き渡った。
作品名:神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件~10-18話 作家名:酔仙