神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件~19-29話
第21話 裁判
4月1日 10:00AM
ミッドチルダ地上本部4階大会議室、ここで裁判が開かれようとしていた。
裁判前、高町士郎は地上本部長官レジアス・ゲイズから謝罪を受けていた。
「今回の事件について本来なら私も謝罪に行かなければならない所、仕事の都合上出向くことが出来なかったことをまずお詫びしたい」
「今回の事件に関して管理局員が同じ管理局員の命を狙った事、私利私欲の為に子供であろうと殺そうとした事について、更にはその家族にまで危害を加えようとした事について、重ねてお詫び申し上げる」
レジアス長官は深々と頭を下げた。
「本来なら子供まで働かせる世界について異常だと感じられると思います。ですが毎年の様に新しい世界が見つかり、その世界への人の派遣や、治安の維持、更には業務量の増加などとても人出が追いつくものでもなく子供さえ駆り出す実情に私は非常に悩ましく思っております。
このミッドチルダに於いても、そんな実情に加え新世界から流入した犯罪者共によって地上の平和さえ脅かされております」
レジアス長官の目が真剣に訴えていた。
「せめてこのミッドチルダだけでも安心して暮らせる平和な世界にしたいのです」
「レジアス長官、何か思い詰めているのですか?どうもそう見えて成らないのだが」
「これは失礼しました、実は私の妻は優秀な魔導師でした……
15年前、他の世界から入り込んだ違法魔導師によって妻は殺されたのです。
私と娘を庇った妻は私たちの目の前で殺されました、それ以来男手一つで娘を育て上げここまでやって来たのです、私は亡き妻の墓前に誓いました、このミッドチルダを、せめてミッドチルダだけでも安全で安心して暮らせる世界にしてみせる。
亡き妻の願いでもあった、子供が働かなくても済む世界にしてみせると」
レジアス長官の強い視線に士郎は思った。
(この男は本物だ)
「しかし未だにこの体たらく、良くなるどころか更に悪化している。
今はまだ力があれば子供にすら頼らざるを得ない状態なのです。
情けない限りです、せめて私の生きている内に私の理想を実現してみせる。
例えどんな手を使っても、必ず亡き妻の願いを叶えてみせる、それが今私がここにいる理由なのです」
「レジアス殿、私も子を持つ親としてあなたの気持ちは痛いほどに良く判ります。
判るからこそ、我が子を傷つけられた怒りもまた判って貰えるはずだ」
「ええ判りますとも、だから私としても出来る限りのことはさせて頂く所存です」
レジアスが差し出した手を士郎が握り返す。
がっちりと固い握手をした二人だった。
だが、直後に士郎は思った、
(何だろう?この違和感は?このやるせなさの正体は?)
確かにレジアス長官は嘘偽りなどはしていなかった。
今喋ったことに誤魔化しも脚色も何もない素のままの言葉だった。
(この男は何か隠している、いや、焦りの余り何かやらかしたと言うべきか……)
そんなことを思う士郎が居た。
作品名:神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件~19-29話 作家名:酔仙