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神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件~30-40話

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 そんなある日、アメリカのシャマルに大きな事件が起きようとしていた。
 アメリカの大学では最終学年になると患者を受け持つ事が出来る。
指導医が付く物の、自分で診察し場合によっては手術のプランを立て、指導医に認められた者は手術の助手や指導医が付いての執刀も出来る。
 まあ、それはごく一部の学生に限った話ではあるが……シャマルもこのごく一部の学生だった。
既に簡単な手術なら指導医は見ているだけで何もしないほどだ。
ヴァルハラでの9ヶ月は彼女を大きく成長させていた。
何時医師免許を与えても充分やれると太鼓判を押されるほどに……

 そんなある日、事件はロサンゼルスの町中で起こった。
パンパンと乾いた音がする。とある銀行の前だった。
5人組の銀行強盗が銃撃戦の末に射殺された。
 だが、その銃撃戦は多くの一般市民を巻き込んでいた。
銃弾を受けて倒れた被害者達すぐに近くの大学病院に搬送される。
それがたまたまシャマル達の居る大学病院だった。
 すぐに野戦病院と化す現場、シャマル達学生もすぐに手当に駆り出される。
泣き叫ぶ者、意識のない者など何人か居る。
 巻き込まれたのは全部で17人、大半は軽傷だったが、それでも何人かは命の危機のある重傷者だ。
 その被害者の中に、10才ぐらいの女の子が居た。
胸から血を流し、意識がない。
もう既に心臓が痙攣を始めていた。
 エコーを掛けた瞬間、シャマルの手が止まる。
弾丸は胸骨のやや左を抜け、肺を傷付けて心臓の中で止まっていた。
正確には左心室の下の方に穴を空けその中で止まっていたのだ。
「どうしよう、こんな日に限って先生が居ないなんて」
 シャマルが先生と言ったのは心臓外科の担当医、加えて循環器外科の担当医も一緒に隣町で開かれている学会に出席中だった。
 今居るのは多くの学生と一般外科の担当医、他には関係ない他の科の医師ばかりだった。
もはや一刻の猶予もない、今まさに一つの命が失われようとしていた。
 人間は心臓に穴が空いてもすぐに死亡する訳ではない。その穴の程度にも依るが、小さな穴である場合死亡するまでには少しばかり時間がある。
でも、彼女はまだ生きている。
 小さな命はまだ生きる事を諦めていなかった。