神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件~41-48話
第45話 兄妹
4月3日、聖詳大附属中等部の入学式、なのは達は今日から中学生だ。
でもクラスのほぼ全員見知った顔である。
エスカレーター方式で持ち上がってきているのだ。
ただ、公立へ行った子や逆に公立から来た子もちらほらいる。
まあクラスの8割方はそのままの持ち上がりである。
中等部は初等部に比べるとなのはの自宅から比較的近い。
その為歩いての通学となった。
通学はフェイト、はやてと3人で歩いていく。
なのはとはやては松葉杖を卒業し普通の杖になっていた。
その杖も4月中には卒業出来そうだ。
最近毎朝のトレーニングが随分効いてきたと実感しているなのはだった。
取り敢えず今日は入学式だけのようだ。
半日ほどで帰宅する。
珍しい事に恭也が家にいた。
そうだ、もう大学を卒業してしまって取り敢えずやる事がないのだ。
恭也は2週間後に忍と結婚する。その為もうすぐ家を出て行く身なのだ。
家にいたのは自分の荷物を纏める為だった。
就職はどうしたかって?もちろん無職ですよ暫くは?
月村グループ次期総帥としての教育が待っているそうですが……
それは結婚してからのお話。
「何だなのはか?」
「何だとは何よ~お兄ちゃんこそこんな所で何をやってるのよ~」
「荷物の整理さ、もうすぐ出て行く身だからな」
そう言われると言葉もないなのは、兄の背中に寄り掛かって話を始める。
「昔はさぁ、良くこうやったよね?」
そう士郎が怪我をして入院していた頃、一番寂しい思いをしていたなのはに優しくしてくれたのは恭也だった。
趣味の盆栽を弄りながら良くこうやってなのはと話をしてくれた。
温かい背中、広くて大きくて力強い背中、そんな背中がなのはは大好きだった。
背中合わせで座って良くなのはのお小言を聞いてくれた背中、いつの間にか忍さんの物になってしまった。
「ねえお兄ちゃん?時々帰ってきてね」
「うーん、難しいぞ、半年したらヨーロッパだから」
「えっっ?」
「仕方ないだろう?先ずは向こうで会社経営の勉強からだ」
月村家の一族として認めて貰うには、まずそれなりの能力がある所を見せなければならない。
月村家もまた多くの会社を抱える財閥である。
特に工業機器関連、製薬関連、医療機器関連の会社が多く、ヨーロッパ方面に子会社が多いのが特徴だ。
中でもドイツでは製薬関連の子会社が集中しており、取り敢えずヨーロッパ方面の統括部長をやらせて様子を見ようと言うのが忍の父からの提案だった。
もし能力がないと判断されれば完全マスオさん状態の飼い殺しにされてしまう。
それだけは嫌だった。
この若さでご隠居さんと言うのもまた惨めな人生だ。
だがこれは同時にチャンスでもある。
一旗揚げれば月村グループの次期総帥になれる可能性もあるのだから。
「なんか寂しいな、お兄ちゃんがいなくなるの」
そう、小さい時のなのはを最も可愛がり遊んでくれたのは恭也だった。
なのはにとって一番身近にいた家族は恭也だったのだ。
「そう言うなよ、これもまた人生だ、出会いが有れば別れもある。
それよりも父さんと母さんをもう泣かせるなよ、
お前が死にかけた時本気で泣いていたからな、あの二人」
「うん……ごめんね」
「それと、その制服、よく似合ってるぞ」
その一言に顔を赤くするなのは、
「うん、ありがとう」
「お兄ちゃん、忍さんとお幸せに!それと孫はすぐに出来そうだって
お父さん達に伝えておくね!」
「バ、バカ野郎!」
茶目っ気たっぷりに寂しさを誤魔化して逃げて行くなのは、やっぱりここにいるのは辛いようだ。
作品名:神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件~41-48話 作家名:酔仙