神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件~60-70話
食後、店に戻る前に美由希が演舞を披露してくれる事になった。
相手は護衛に付いてきた男だった。
相手は西洋剣型のアームドデバイスを持っていた。
「本当に良いんだな?」
「それ位じゃないと面白くないのよ」
模擬戦とはいえ殺傷設定で来いとはかなり舐められたと思ったのだろう。
ちょっと苛立っているようだ。
でも、伝説の戦闘民族サムライその強さは計り知れないと薄々は思っていた。
それでもこの男AAAランクの魔導師だ。
素手の相手に簡単に負けるような事はないと自分ではそう思っていた。
相手はフェンシングのような構えで美由希に剣を向けて構える。
美由希はただ自然体に立っているだけだ。
「始め!」
士郎が合図した瞬間相手は魔力を込めた強烈な突きを放ってきた。
一瞬二人が交錯したかに見えたが何事もなかったかのようにお互いに通り過ぎた。
次の瞬間、剣が砕け散り男が倒れる。何が起きたのだろう?
美由希は剣を躱す瞬間に剣の横っ腹に当て身を入れ、更に返す拳を裏拳で相手の顎先に掠らせていたのだ。
一瞬の事で士郎以外は何が起きたかも分からなかった。
「あれが5段並の実力、私もあそこまで強くならなければ……」
なのはは冷や汗をかきながら遙かな頂を見上げるのだった。
レティ提督も言葉を失っていた。
まさかAAAがこんなに簡単にやられるとは思ってみなかった。
夏だというのにその強さの前に恐ろしいほどの寒さを覚えたのだった。
(これが戦闘民族サムライの力の一端か?)
倒れた彼を膝枕しながらレティは稽古を見守る。
目の前で繰り広げられる厳しい練習、失敗すれば竹刀で頭を思い切り打たれる。
これの積み重ねがあの強さを生み出す秘密だとそれだけははっきり分かる。
稽古の締めはいつも通りの試合だった。
「今日は、シャマルさんが居るから打撃を解禁する」
早速名乗りを上げたのはフェイトだった。
「シグナム、相手をお願いします」
「よかろう、相手をしよう」
開始線で二人が睨み合う。
「始め!」
先ずはお互い組み手から簡単には相手が掴めない。
シグナムがフェイトを誘い込む、フェイトが襟を取りに来た瞬間、狙い澄ましたようにシグナムが中高拳でフェイトの顎を狙う。
しかし、読まれていた。
フェイトはその拳を外に捌きつつ小手捻りを入れる。
投げられるシグナム、しかし空中で受け身を取り着地と同時に四方投げを打つ。
だがまたしても読まれていた。
四方投げを受けて空中で受け身を取りながら指取りに来ていた。
その手を何とか振り払ったシグナムまたお互いが睨み合う。
そう簡単には決着が付かない。
今度はフェイトが突っ込んできた。下段からの突きが来る。
その手を取ろうとしたシグナムだったがそれは打撃ではなかった。
フェイトの手を取ろうとしたシグナムの手をフェイトの手が掴む。
握手だった。
握手に固められて押さえ込み一本でフェイトの勝ちだった。
「や、やられた」
どおやら頭脳プレーではややフェイトに部があるようだ。
「今何が起きた?」
途中で目を覚ました護衛の男もレティ提督も訳が分からないようだ。
「同じ事をされれば分かるさ」
士郎がぽつりとそう言った。
取り敢えず護衛の男がフェイトと握手してみる。
「これであなたは動けない」
そう言われた瞬間、本当に動けなかった。
レティ提督も試してみる。
体が固まったように動けない、それは二人にとって摩訶不思議な体験だった。
「じゃあ、次の試合は……」
作品名:神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件~60-70話 作家名:酔仙