神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件~60-70話
「じゃあ、今夜から少しずつ攻撃の技を教えていくぞ!」
士郎が新しい技を教えようとしていた。
「一番最初は、握手からだ」
握手が何故攻撃なのか分からない全く訳の分からないなのはだった。
「先ずは、やってみるか?なのは握手だ」
士郎がなのはと普通に握手する。
だが次の瞬間だった。
「どうだ動けないだろう?」
そう言われた瞬間だった。
本当に動けない、掴まれている右手はもちろん、
両足も、いや、体全体が動かない。
何かに抑え付けられて全く動けないのだ。
「左手だけは自由になるぞ?」
そう言われるまでは気が付かなかった。
確かに左手は何の制約もなく動けるので、
何かに抑え付けられている訳ではないと理解できる。
「全員同じ体験をしてみるか?」
そう言って士郎は全員と握手を交わす。
誰も握手された瞬間、何かに抑え付けられたように動けなくなった。
「これが御式内の握手だ」
何がどうなっているのか?さっぱり理解できないでいる一同。
士郎が分かり易く原理を説明する。
「この握手は、と言うか御式内自体、人体の不思議を利用した武術なんだ」
「人体の不思議?」
「そうだ、人の体は一定の方向に捻られると、
骨折や脱臼を防ぐ為に自動的に防衛プログラムが働くように出来ている。
だから、その防衛プログラムを逆手に取ると、
相手の力を利用して投げ飛ばしたり押さえ込んだり出来るんだ」
「防衛プログラム?」
「そうだ、骨折や脱臼を防ぐ為に自分の意思に関係なく勝手に飛び上がったり回転してしまうんだ。
それをコントロールしてやれば思いのままに相手の体を操る事が出来る。
実は、この前投げ飛ばしたあれも俺は殆ど自分の力を使っていない。
お前達が勝手に飛んで壁にぶつかったり畳に落下したりしたんだ」
士郎の説明にとても信じられないという顔をする一同、
でもその人体の不思議があるからこそ最強の武術なのだろう。
「それでな今回の握手のやり方だが、手の位置と角度、足の位置との関係、相手の足の位置と手の角度に注意してよく見て覚えろ」
そう言ってもう一度手を差し出した士郎になのはが手を握り返す。
士郎は右半身に半歩踏み出していた。
なのはの両足は揃っている。
その状態で握手の瞬間、士郎はさり気なく握手した手を自分の右足の上まで引きつけていた。
その状態で自分の親指で、相手の親指の付け根に体重を掛ける。
握力ではなく僅かに前傾するだけで体重が掛かるのだ。
こうなるとなのはは身動きが取れなかった。
右腕は完全にまっすぐな状態で手は手首から先がやや上を向く格好になる。
そして親指の付け根をがっちりと押さえ込まれているのだ。
こうなると体がやや前傾気味に固定されて体に力が入らない。
更にはそこへ動けないと言われると左手が動ける事すら忘れてしまう。
これが人体の不思議を体感した一番最初だった。
「今日は握手を覚えて貰う、明日からは本格的に投げ技を教えていくぞ!」
そしてなのは達は少しずつ新しい技を覚えるのだった。
「お盆期間中は、稽古はお休みにする!」
士郎がそう言った。
「何で?」
「13年ぶりに御神の里へ行って来ようと思う」
それはなのは達にとって新たな御神の秘密を知る事になるとは、まだ思っても見ない事だった。
作品名:神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件~60-70話 作家名:酔仙